脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
Header

東京大学皮膚科教授 佐藤伸一先生の講演から
 (全てを記録できなかったのでその一部を紹介する。もし間違いがあればそれは私の責任である。)
 第109回日本皮膚科学会総会の2010.4.16イブニングセミナー4で「アトピー性皮膚炎の考え方—病態の一元的理解を目指して—」と題して講演された。内容は、アトピー性皮膚炎の病態は、1)バリア異常と2)免疫異常(Th1/Th2バランスの異常やIgE産生など)という2つの主要な異常によって生じているが、一義的な異常はどちらかという問いかけとその答えであった。
 バリア異常の原因としてアトピー性皮膚炎ではフィラグリン、ロリクリン、インボルクリンの発現異常がある。この異常は人種差がある。これらの蛋白質は、遺伝子異常のある場合は勿論低下しているが、遺伝子異常のない場合にもアトピー性皮膚炎患者では正常以下である。このバリア異常のために皮膚では外来性の抗原が免疫機構を反復刺激してIgE産生を増加させる。掻破を抑制するとIgE産生増加は低下する。IgE増加はアトピー性皮膚炎の原因ではなく結果である。掻破を抑制するとIgEが減ることもそれを示している。
 IgE高値とアトピーの病態とは相関しないこと多い。例えば臍帯血のIgEの値とADの発症は相関しない。健常人でもダニに対するIgEは30-40%に陽性である。IgEに依存しないアトピー性皮膚炎がある。IgE欠乏症でもアトピーは出る。動物実験でIgEのノックアウトマウスでも湿疹はできるので、IgEに関連付ける必要はない。しかし、アトピーの重症度とIgEの値は相関する。だから、IgEは皮膚炎の結果生じるのであって、アトピーの増悪因子であるとの考え方は疑わしい。抗IgE抗体投与(omalizumab?)でもあまり効果がないこともそれを支持している。
 フィラグリン欠損マウスで湿疹が起こるかを調べると、アトピー類似の湿疹が起こっている。フィラグリン欠損の魚鱗癬の約40%はアトピーの症状を示さない。ヒトでは別の因子が必要であるのか?
 免疫異常はバリア異常を起こすか、の問いには、そうであると言える。これはフィラグリン遺伝子の異常なしにも起こる。Th2サイトカインはロリクリンやインボルクリンの発現を低下させる。これにより、バリア異常を起こさせる。
 アトピー性皮膚炎は均一ではない。IgE関連アトピー、真のアトピー、外部刺激性アトピーがある。
 結論的に、バリア異常がアトピー性皮膚炎の一義的な異常である可能性を示している。Th2サイトカインは、フィラグリン、ロリクリン、インボルクリンの発現を抑制し、更にバリ異常を助長する。
 以上であるが、重要な点は、IgEをアトピー性皮膚炎の原因と考えないことをはっきりと主張されたことである。この講演の後で、この講演の座長を務めておられた東京女子医科大学皮膚科教授、川島 真先生は、「その考えで大人になればアトピーがなくなることはどう説明するのか」と質問された。これは、アトピーの原因がアレルギーであるとの説を唱える人でも困っている点である。この質問には佐藤伸一教授は明確な答えを言われなかった。講演会の後で私が道すがら「身体の成長に伴う皮膚の成長という考え方を考慮すれば説明できます」とお話しすると「言えるかもしれませんね」とのご返事であった。私の考え方に非常に近い考え方だと思いました

日本皮膚科学会に、ステロイド外用剤の副作用として、ステロイド依存性皮膚症をガイドラインに入れるように要望しました。以下がその内容です。今回は簡単に書きました。
日本皮膚科学会理事長 橋本公二 殿
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会委員長 古江増隆 殿
要望書
 近年増加しているいわゆる成人型アトピー性皮膚炎は、「ステロイド使用によって生じたステロイド依存性皮膚症を合併するアトピー性皮膚炎」(「患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法」(つげ書房新社、佐藤健二著)16頁)と、そして「ステロイド依存性皮膚症とは、皮膚が外用ステロイド無しには普通に機能しない状態で、外用中止により離脱症状を起こ」(同書)す状態と考えます。
 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(日皮会誌:119: 1515-34, 2009)には、タクロリムス軟膏の使用に当たって注意すべき事項として酒皶様皮膚炎が挙げられています。酒皶様皮膚炎は、タクロリムス軟膏の発売よりはるか昔にステロイド外用によって起こる副作用として認識されました。酒皶様皮膚炎は顔面に生じたステロイド依存性皮膚症と考えます。顔面に生じるものであればその他の部位にできないはずはありません。現在アトピー性皮膚炎患者の間で問題となっていることは、全身に生じている酒皶様皮膚炎、すなわちステロイド依存性皮膚症です。学会の慣習にそぐわず、先に発見されかつ広範に生じている副作用である酒皶様皮膚炎をステロイド外用剤の副作用として挙げず、さらに患者の間で社会問題ともなっているステロイド依存性皮膚症については全く言及がないことはガイドラインとしては適切でないと考えました。
 従って、平成22年3月10日付けで日本皮膚科学会専門医、深谷元継医師から提出された日本皮膚科学会あて要望書を支持するとともに、私もステロイド依存性皮膚症をステロイド外用剤の副作用に含めていただきたく要望書を提出させていただきます。よろしくお取り計らいをお願いいたします。
2010年4月3日
医療法人財団医療福祉センター 阪南中央病院 皮膚科 佐藤健二