脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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アトピーガイドライン批判

6月 18th, 2010 | Posted by 佐藤 健二 in 学会

「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」批判
(1)診療ガイドラインの公表
 日本皮膚科学会は、2008年になり、初めてアトピー性皮膚炎に関する体系的な「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を公表しました。翌年にはそれを改定しました。2008年までは、診断基準と重症度分類と治療ガイドラインがそれぞれ別々に発表されていました。診療ガイドラインができたことによって初めて日本皮膚科学会の考え方の全体像が分かるようになりました。従って、このガイドラインを基に、皮膚科学会の考え方の良くない点も系統的にわかるようになりました。今後、特に断らない限り、ガイドラインといえば2009年版のガイドラインのことを指すことにします(古江増隆他、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン、日皮会誌:119、1515−1534)。
(2)ステロイド外用治療の社会的混乱を隠蔽
 1)ガイドラインに記述された外用ステロイドの副作用
 アトピー性皮膚炎患者のステロイド外用による副作用についてガイドラインの記述をまとめると次のようになります。「ステロイド外用薬の副作用」として、例外的に行われるリンデロンVの大量外用(1日20gを使い、サランラップで巻いて吸収をよくした場合)で副腎機能抑制は生じるが、「ステロイド外用薬を適切に使用すれば、日常診療における使用量では、副腎不全、糖尿病、満月様顔貌などの内服薬でみられる全身的副作用は起こり得ない」。局所的副作用として「ステロイド痤瘡、ステロイド潮紅、皮膚委縮、多毛、細菌・真菌・ウイルス性皮膚感染症などは時に生じうる」。ステロイド外用薬の使用後に生じる色素沈着は皮膚炎による色素沈着であり、ステロイド外用によるものではない。ステロイド外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎も起こる、と。
 2)酒皶様皮膚炎を除外すべき診断に入れず
ここまでの副作用に関する記述は、炎症後の色素沈着がさざ波様になることについてはステロイドの影響もあると考えるべきである点を除けば間違いではありません。しかし、皮膚科学会会員の中でも知名度の高い酒皶様皮膚炎は上記記述の中に含まれていません。酒皶様皮膚炎は、ステロイド薬を顔面に外用することにより生ずる医原性の病態、ステロイド酒皶であることは周知のことですし、外用ステロイドの副作用として命名された疾患です。このステロイドの局所的副作用の病態がタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏のこと)の外用によっても起ることが後に分かりました。しかし、外用剤の副作用としての酒皶様皮膚炎をタクロリムスの局所的副作用としてのみ挙げているのです。2009年版ガイドラインでは、稀の稀の稀にみられるような珍しい疾患を「除外すべき診断」の中に新たに入れていますが、2008年版と同じく、広範に生じている酒皶様皮膚炎を「除外すべき診断」に入れていません。
3)酒皶様皮膚炎は顔面のステロイド依存性皮膚症
酒皶様皮膚炎では、ステロイド外用を続けていれば顔面の皮膚はある程度安定した状態を保ちますが、中止によって激しい離脱症状が起り、その後で良くなる、というステロイド外用剤に対する依存状態を示します。だから、酒皶様皮膚炎は顔面に限られたステロイド依存性皮膚症と言えます。アトピー性皮膚炎では全身に皮疹が出現することも少なからずあり、ステロイド外用が全身に及ぶ場合もあります。全身外用の場合も、ステロイドを止めなければ皮膚はある程度安定した状態が続きますが、中止によって全身に激しい離脱症状が起り、その後で良くなるということが起こります。従って、アトピー性皮膚炎の場合、長期間継続して(乳幼児の場合は一カ月以内でも起こります)ステロイド外用剤を塗っていて、ステロイド外用を中止しようとすると悪化してステロイドを止めることのできない時は、顔面に限らず外用部位全体が酒皶様皮膚炎、すなわちステロイド依存性皮膚症になっていることになります。
4)「局所的副作用」の「ステロイド潮紅」とステロイド依存性皮膚症
 ガイドラインでは、「局所的副作用」として「ステロイド潮紅」を認めています。しかし、「近年しばしばみられる成人患者の顔面の紅斑性病変の多くは,掻破などを含むステロイド外用薬以外の要因に起因するものではあるが,局所の副作用の発生には注意が必要な部位であり,処方に当たっては十分な診察を行う.」(p1525右段)と述べるにとどまり、顔面の紅斑性病変についてステロイド外用の局所的副作用として認めないような表現です。また、「局所的副作用」の「ステロイド潮紅」などは「時に生じうる」程度であり「中止あるいは適切な処置により回復する.」(p1526左段)と記述しています。酒皶様皮膚炎の場合は、ステロイド中止後に激しい離脱症状が出現しますので、ここでは酒皶様皮膚炎、すなわちステロイド依存性皮膚症は全く考慮の対象となっていません。しかし、「局所の副作用の発生には注意が必要」であるならば「ステロイド外用薬以外の要因に起因するもの」と「局所的副作用」としての「ステロイド潮紅」をどのように鑑別するのかを明確にさせる必要があると思われます。この鑑別方法は何処にも記述されていません。
5)全国調査の成人アトピー性皮膚炎患者
「2007年に実施された皮膚科受診患者の多施設横断全国調査では,本症の受診患者は0〜5歳と21〜25歳をピークとする2相性の分布を示し,46歳以上の患者が全体の9.64%を占めており,日常の診療では幅広い年齢層の患者が対象となることが示された.」と述べ、増加している思春期以降のアトピー性皮膚炎患者を普通のアトピー性皮膚炎患者として扱っています。脱ステロイドを希望する患者は特にこの年齢層で多く、この人々はステロイド外用を続けていれば徐々に必要量は増加しますが皮疹はかなり安定しています。しかし、ステロイド外用を中止すると激しい離脱症状を示して皮疹が消失していきます。この人々はステロイド依存性皮膚症を有しています。プロトピックを外用している人々も同じような依存性が存在します。もちろん幼小児でもステロイドやプロトピックを外用している人では同じ依存状態のアトピー性皮膚炎患者は多数います。ガイドラインはこのことに何も触れていません。
6)ステロイド依存性皮膚症の存在を隠したがっている
以上見てきたように、酒皶様皮膚炎を「除外すべき診断」の中に入れないだけでなくステロイド外用剤の顔面の副作用としてもガイドラインに記述していないこと、ステロイド外用中の患者がステロイド外用を中止した場合には激しい離脱症状の出現することが記述されておらず「中止あるいは適切な処置により回復する」と簡単な記述で済ましていること、成人アトピー性皮膚炎患者をその他のアトピー性皮膚炎患者と区別せずに記述していること、「ステロイド外用薬以外の要因に起因するもの」と「局所的副作用」としての「ステロイド潮紅」をどのように鑑別するのかを記載していないことは、アトピー性皮膚炎患者の外用部位全体にステロイド依存性皮膚症が生じていることを認めたくないことから起ってきています。
 アトピー性皮膚炎の治療に関して、日本において、依然としてステロイドやプロトピックの外用が大きな問題として厳然として存在しています。科学者でありアトピー性皮膚炎患者でもある人の苦しい自伝とその人も参加して行った1000人を超えるアトピー性皮膚炎患者についての調査結果が出版され、真摯な姿勢が貫かれた内容であるため広範に読まれています(安藤直子著、アトピー性皮膚炎 患者1000人の証言、子供の未来社、2008年)。ガイドラインの中にはこのような問題について一言も触れられていません。それどころか「Ⅰ.はじめに」の中には「その炎症に対してはステロイド外用薬やタクロリムス軟膏による外用療法を主とし」と述べ、ステロイド治療について全く反省する意思の無いことを明確にしています。
 7)ステロイドの有効性と安全性は保障されているのでしょうか?
 問題を正面から提出してみましょう。「アトピー性皮膚炎患者に対する長期にわたるステロイド外用剤の有効性と安全性は証明されていますか?」です。具体的に言えば質問はこうなります。「生まれてすぐから20年の間ずっとステロイドを付け続けているのですが、今後もステロイドを塗れば副作用もなく治るのでしょうか?」です。答えは「否」です。それはガイドライン自身がそれを吐露しています。「アトピー性皮膚炎の炎症を十分に鎮静しうる薬剤でその有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤は,ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏である.」を保証する文献をガイドライン中に示しえていません。ガイドラインなどの重要な文献において、主張すべき内容に関する引用文献の無いことは証明ができていないことを意味します。日本皮膚科学会が強調する「エビデンス」を問題にすれば、ステロイドやプロトピックの有効性と安全性を証明するエビデンスはないと言わざるを得ないのです。ガイドラインの薬物療法の第一番に記述されている薬物についてその根拠が示しうる文献がないということは信じがたいことです。
8)脱ステロイド治療に根拠はないのでしょうか?
 ガイドラインは、脱ステロイド療法と特定して述べてはいませんが、引用文献から判断すれば、この療法は「科学的に有効性が証明されていない」と断定しています。しかし、脱ステロイド療法は1979年には欧米で十分知られ、論文にもなっているものなのですから、エビデンスは存在するのです(Kligman AM, Frosch PJ, Steroid addiction, Int J Dermatol 1979; 18: 23-31)。日本でも文献は存在します(玉置昭治他、成人型アトピー性皮膚炎の脱ステロイド療法、日皮アレルギー 1993; 1: 230-234)。論文数が少ないあるいは知名度が少ないのは、この療法が知れ渡ると不利益を被る人が非常に多いので、その人々をバックにして知名度が上がらないように配慮されているためです。しかし、問題があまりに大きいので、その分研究が進み、非常に詳細な治療方法も明らかになっています(佐藤健二著、患者に学んだ成人型アトピー治療 脱ステロイド・脱保湿療法、つげ書房新社、2008年)。ガイドラインは、ガイドラインが批判している相手である脱ステロイド療法より優れていることを証明し得ていないことは明白です。
 9)プロトピック(タクロリムス)を高く評価する間違い
 現実の医療の現場では、皮膚科医はプロトピックを使う時に「ステロイドのような副作用の無い薬」を「副作用の無い薬」と少し省略して患者に説明して使用の承諾をもらうようにしています。許しがたいひどい省略です。薬の能書きには、動物実験において悪性リンパ腫の増加が認められ、人間でも悪性リンパ腫、皮膚癌の発現が報告されていることを患者に説明してはじめて使用することになっているのです(能書きではわざわざ「悪性リンパ腫」と記さずに、「悪性」を抜かして「リンパ腫」と記しています)。
 タクロリムスの内服薬(ネオーラル)は、臓器移植や骨髄移植の時に生じる移植免疫反応、すなわち拒絶反応を抑制するための非常に強い薬です。本来、自然に治るような病気に使うべき薬とは到底思えません。しかし、ガイドラインは有効で安全と言い切っています。そして副作用がないという短期の調査結果を示す文献を紹介しています。しかし、この薬の使用が発癌に対して安全であるというためには、何十年という期間の追跡調査が必要です。少数例の追跡調査は行っているようですが、この薬を使用するすべての子供たちに対してこの調査が行われるべきだと考えます。
 なお一言付け加えますと、プロトピックは、ステロイド外用剤で効果が不十分であったり副作用でステロイドが使えない場合に初めて使用するべきと説明されています。このことは、ステロイドで効かない症例のあることを日本皮膚科学会は認めたことなのですが、これについてはできるだけ目立たないようにしています。
 10)その他のガイドラインの問題点
 社会的問題以外についても、本ガイドラインには、個々の項目について問題点を指摘できます。そのいくつかを列挙しますと、診断基準において年齢に対する配慮が不足していること、診断の参考項目を実際の診断においてどのように利用すべきかを指示していないこと、重症度分類における各皮疹の治癒過程における位置づけが欠如していること、ステロイド外用中に効果の出なくなった痒疹対しては脱ステロイドが絶対的な適応になるにもかかわらずステロイド外用以外に効果がないなどの間違いが入っていることです。またステロイド外用による皮疹の変化や病状の変化を一切考慮していないことです。アトピー性皮膚炎本来の皮疹の悪化であるのか、治療に用いている薬剤すなわちステロイドやプロトピックの副作用による皮疹であるのか、を考慮していないことです。
 11)ガイドラインの歴史的有用性はあるのでしょうか?
治療方法が治療対象臓器に対して非常に強力に作用する場合には、対象臓器の正常な働きを大きく変えてしまうことが起こりえます。ステロイド外用剤はそのような強力な薬です。アトピー性皮膚炎ではほとんどすべての患者がステロイドで治療されています。アトピー性皮膚炎の炎症に対するステロイドの作用の他に、正常に機能している皮膚そのものにも強力に働いて正常な皮膚も変化させます。すると病像は大いに変化します。変わった病像を正確に評価し、変わったことに対処するためにアトピー性皮膚炎に対する治療医学は変化しなければなりません。治療方法を含め社会環境が時代とともに変われば治療の対象となる患者の病像も変わり、医学も必然的に変わらざるを得ませんから、特定のガイドラインについても歴史的な意義や有用性が問題となります。ガイドラインはこのような視点では全く見ていません。また、ステロイド治療についても反省していません。このようなガイドラインの歴史的な有用性はほとんどないだけでなく、時代に取り残され有害にさえなっています。ガイドラインは根本的に見直す必要があります。
(3)アトピー性皮膚炎の原因をアレルギーとあまり考えていないこと
 ガイドラインで注目すべきは、アトピー性皮膚炎がIgEアレルギーによって起こってきているということをあまり断定的に述べていないことです。しかし、この点についてももっと真剣に考察し、しっかりとした見解を出すべきでしょう。なぜなら、幼小児アトピー性皮膚炎治療におおけるIgE食事アレルギー説の弊害を克服する必要があるからです。

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コメント(2)

  • Minakowska

    SECRET: 0
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    はじめまして。先生のブログをいつも
    とても興味深く読まさせていただいています。
    最近日本アトピー治療学会JATが電子付加治療によるステロイド・プロトピックのような副作用のない新しいタイプの治療法を紹介しているのですが、もしよろしければ、その療法についての先生のご意見や批判をお聞かせいただければありがたい思います。
    ここ数ヶ月脱保湿をして、前ほどかさかさにならなくなったものの、まだひどい皮膚の状態です。 このまま脱保湿を続けるか
    クリームを使うこの新しい治療法を副作用のリスクがないのなら試してみたい気もして迷っています。
    電子付加治療を紹介しているサイトです。
    http://www.jat.gr.jp/
    よろしくご指導お願いします。

    • 佐藤 健二

      電子が出るということは、放射線のベータ線が出るということです。怪しげで信用できません。



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