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原発事故とアトピー患者

3月 27th, 2011 | Posted by 佐藤 健二 in その他

福島原発事故とアトピー患者

この説明を書くにあたって参考にした書物を挙げておきます。一つは、金芳堂の「MINOR TEXTBOOK 放射線基礎医学」(改定第9版第4刷、2002発行)と日本アイソトープ協会の「やさしい放射線とアイソトープ」(初版第2刷、1986年)です。

 

1.原子力発電所から出る放射性物質

原爆のための核実験で地上に降って直接または食物連鎖を経て人が被爆する放射性降下物(フォールアウト)としての核種は、14C(炭素)、137Cs(セシウム)、90Sr(ストロンチウム)、106Ru(ルビジウム)、144Ce(セリウム)、3H(トリチウム)などです。原子力発電所(原発)から出される核種は、85Kr(クリプトン)、3H(トリチウム)、14C(炭素)、131I(ヨウ素)、137Cs(セシウム)、134Cs(セシウム)、34Na(ナトリウム)、60Co(コバルト)などで、放射性降下物と同じように直接または食物連鎖を経て人が被爆します。

既に、福島原発から地上、空、海に大量にこれらの放射性物質が放出されています。放出が減る見込みは全く立っていません。核燃料格納容器爆発の可能性も指摘されています。放射性物質による汚染地域がどんどん拡大しています。飲み水に、野菜に、牛乳に原発由来の放射性物質の存在が確認されています。クリーンで安全という原発のうたい文句は吹っ飛びました。火山や地震の多い日本での原発は大変危険であるという警告を無視した歴代政府の原発推進政策(電源確保を、主として原発に頼っていこうとする政策)の誤りが大変な事態を引き起こしました。福島第1原発事故は人災と言わざるを得ません。

アトピー性皮膚炎患者もこの危機を乗り切っていかなければなりません。アトピー性皮膚炎患者は健常な人に比べて被爆の危険性は高いのでしょうか。検討してみましょう。

 

2.放射線の確率的影響と非確率的影響

後で、直接被爆と食物連鎖による被爆に分けて考えてみますが、その前に、チェルノブイリ原発事故などの過去の事故でどのような問題があったかを放射線防護の観点から考えてみます。被爆で問題となる事柄は、大きく二つに分けられます。非確率的影響(確定的影響とも言われます)と確率的影響です。

非確率的影響は、原発の火事を止めるためにそばまで行かざるを得ず、強い放射線を浴びることによって火傷のような皮膚の損傷などを受けることです。程度がひどければ死に至る強い放射線を浴びます。チェルノブイリでは多数が、1999年の東海村JCO臨界事故でも強い放射線を浴びて二人の作業員が亡くなられました。今回の福島原発事故でも、東京電力の下請け会社の作業員が配線作業の時に高濃度の放射性物質を含んだ水の中を歩いたために起きた火傷も非確率的影響としての放射線障害です。この非確率的影響はある被爆線量を超えないと起こりません。例えば、火傷の反応は平均的には3-4シーベルト(=3000-4000ミリシーベルト)程度の被爆で起こります。

確率的影響は遺伝的影響と発癌の問題です。だから、事故直後ではなく放射性物質が広範にばらまかれた後の問題です。チェルノブイリ原発事故の場合、次のように言われています。体内に取り込まれた放射性物質で大きな影響を与えたのは、137Cs(セシウム137)が全体の約70%、134Cs(セシウム134)が約20%、131I(ヨウ素131)が約6%だったとのことです。福島原発の放射性物質の放出が止まり、この影響のことを心配しなくていい状態に早くなることを祈るばかりです。

 

3.アトピー患者の直接被爆について

福島原発の爆発事故の直後には、周辺住民に対して避難勧告が出されました。最近では20-30km圏の人々に自主避難を勧める声明が政府より出されました。自主避難を勧める理由が、その地域にいた人々が避難し市民生活が正常に行えないためだとのことです。これでは自主避難を勧める声明を出さなければならなくなった責任は避難した住民にあるということになります。責任転嫁も甚だしすぎます。

避難時に政府が勧めた行動は、できるだけ体を服などで隠すこと、顔にはマスクをすること等です。このような事をする理由は放射線被爆を減らすということですが、それ以上の詳しい説明は述べられていませんでした。セシウム137とセシウム134、ヨウ素131はベータ崩壊(ベータ壊変)し放射性電子を放出するとともにガンマ線も出します。皮膚に直接付けばこの二つの放射線で皮膚を障害します。セシウムは細胞膜を自由に通過することができます。ヨウ素も皮膚に簡単に付着します。だから皮膚に付かないために皮膚を直接大気に出さないようにすることが必要との意味で、服で体を隠す、顔にはマスクをすることが勧められたのです。アトピー患者と健常者とで放射性物質が直接付着する率が違うかというと、その違いはありません。セシウムもヨウ素も反応性が高いので、アトピーであろうとなかろうと同じように皮膚に付着します。だから、この意味でのアトピー患者の不利はないと言えます。

なお、できるだけ服を着るようにとの指導には次の意味もあります。ベータ崩壊ででる電子は薄いアルミニウム板や1㎝程度のプラスチック板で遮蔽することが可能なので、少しでも服を着て障害物を作るようにする方がいいという意味も含まれています。

揮発性や浮遊している放射性物質は呼吸で肺に吸収されます。この場合も、説明の必要もないと思いますが、アトピー患者で吸収の確率が高くなることはありません。

 

4.アトピー患者の食物連鎖による被爆

ホウレンソウや牛乳に放射性物質が含まれていることが報道されています。大気中や海に放出された放射性物質は、色々な動植物に取り込まれます。人間が放射性物質を含んだ食物を食べればその物質の特徴に従って体内に分布します。セシウムは筋肉と腎臓に多く存在します。ヨウ素は甲状腺にあります。これらの部位でベータ線やガンマ線を出してその部位にある細胞やDNAを傷め、最終的には悪性腫瘍を発生させます。ヨウ素131の物理的半減期(放射線の強さが半分になるに要する期間)は8日です(生物学的半減期は138日)。だから、ヨウ素被爆をした場合や被爆する可能性のある場合に普通のヨウ素を多く摂取すると甲状腺に放射性ヨウ素が集まらずに甲状腺がんを起こす確率が減ります。セシウムの半減期は134で2.5年、137では30年です(生物学的半減期は成人で50-150日、子どもで44日)。これだけ長期に体内に存在すれば放射性物質が入った部位に悪性腫瘍のできる確率は非常に高くなります。

このような食物連鎖の過程を通った被爆は、アトピー患者と健常人では全く違いはありません。アトピー患者だから多くホウレンソウや牛乳を摂取することはないでしょう。単に好みの問題があるだけです。

「傷から放射能が入り、体内被曝する可能性は0ではない」との報道があったとのことです。上記書物「やさしい放射線とアイソトープ」の「体内照射に対する防護」の項に「アイソトープが体内に入る経路にはつぎの3つがある。(1)呼吸器を通しての摂取 (2)口、消化管を通しての摂取 (3)皮ふ、とくに傷口を通しての摂取」とあります。(3)の説明の図を見ると、実験動物を片手に持っていて、もう一方の手で放射性物質の入った注射器を持っています。その動物に注射しようとした時、おそらく、動物が嫌がってもがき、手元が狂って自分の手に放射性物質を注射してしまった状況が描かれています。もしこの本のようなものから文章だけを取り出して報道したとすれば、正しい報道とは言いにくいように思います。

 

5.自然放射線

現在、福島原発事故で原発から放出される放射線が問題になっています。報道ではしばしば、この程度の放射線では人体に影響はありません、という表現がしばしば出ています。非確率的影響では確かに影響はほとんどない程度のものです。しかし、確率的影響にとってはそうではなくて、少しでも放射線が増えれば悪性腫瘍を発生する人は増えるのです。だから、「安心安心」と吹聴することを報道機関や政府は慎むべきであると思います。

人間がどうしても避けられない放射線もあります。それが自然放射線です。これは、1年間に一人の人間では約2ミリシーベルトあります。内訳は、宇宙から来る宇宙放射線が0.3ミリシーベルト、地球の大地に含まれる放射性物質から来るものが0.35ミリシーベルト、人体内に存在する放射性物質が1.35ミリシーベルトです。体内のものの大部分は空気中にあるラドン等の吸収による1ミリシーベルトと食物に由来するカリウム40などが0.35ミリシーベルトです。

日本では医療被曝が年間2.25ミリシーベルトと高いですが、世界の平均では医療被曝は0.6ミリシーベルトとかなり低いです。医療での放射線被爆を減らす必要があるように思います。そのためには放射線診断での不要な検査を減らす必要があるでしょう。

 

6.結論

アトピー患者は、病気の状態や治療の違いに関わらず、健常人と同じように放射線防護をしておればよいということです。

 

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