脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
Header

週刊文春編集局御中
2012.12.17
 私は記事の中に出ています皮膚科医師佐藤健二です。このような記事を掲載していただき、お礼を申し上げたく連絡をさせていただきました。
 日本皮膚科皮膚科学会から出されているガイドラインには「有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤は、ステロイド外用薬とタクロリムスである。」と記述されています。しかし、それを主張することができるエビデンスとしての文献の引用がありません。治療で非常に重要な薬物について引用文献がないということは、主張していることについて根拠がないということです。最も重要な薬物の効果と安全性についての引用文献がないということはガイドラインとして失格といえます。では、ステロイドやプロトピックによる治療の予後はどのようなものでしょうか。ガイドラインの責任者もガイドラインの治療ではなかなか治らないことを知っているようで、予後についての記述は「予後」の項目が作られておらず(恥ずかしくてその項目を作ることをためらったのでしょう)、「病態」の項目の中に「一般に慢性に経過するも適切な治療により症状がコントロールされた状態に維持されると自然寛解も期待される疾患である。」と自信なさそうに述べるだけです。皮膚科医や小児科医はこのガイドラインを基に「ステロイドを使わないとアトピーは治らない」と患者に説明し、その治療に従わない患者を叱りつける場合が非常に多いです。患者無視もひどいものです。
 ガイドライン作成者の責任者である古江先生は、仕方なしに自分の論文(Br J Dermatol 2003; 148: 128-133)でいろいろ話をされます。この論文を使ってプロトピックの有効性についても述べられておられます(アレルギー・免疫2004; 11: 116-23)。以前はステロイド外用薬は35g使用していたがタクロリムス外用によって15gに減ったと。確かに以前はステロイドだけで35gでした。それから比べれば20g減っています。しかし、実際に使ったのはステロイド15gに加えてタクロリムス70gです。タクロリムスの作用の強さはステロイドのストロングクラス(上から3番目でリンデロンと同じ程度)と同じなので、ステロイドに換算すれば合計85g、従って以前の2倍以上使用していることになります。良くなって当たり前です。そして、「タクロリムス軟膏の外用によってステロイド外用量が減少していることが窺える。」と述べておられる。確かにステロイドの量は減ってはいますが、見え透いたトリックで誠実な議論であるとは言えないと思います。
 初めの論文(記事の中に出ていた論文です)について少し追加しますと、6か月のステロイド治療で重症度が改善したのは38%、変化しなかったのが59%、悪化したのが3%です。先日ある学会で、このデータを紹介し、「ガイドラインによるステロイド治療で良くならない人がたくさんいる。学会が排斥する脱ステロイド・脱保湿でこんなに良くなる人がいる。だから、脱ステロイド・脱保湿を治りにくいアトピー性皮膚炎の患者の治療として認めるべきである」旨の発表をしました。古江先生の反応は「脱ステロイドなどを言うのは皮膚科医の治療に対する冒涜である」との発言でした。私が紹介した症例が余りにも綺麗に治っているので、話を変な方向に持っていかざるを得なかったのでしょう。
 ステロイド治療がよいという根拠を示せず、実際のデータは悲惨な結果であり、きれいに治る治療がガイドラインに従っていないためにそのような治療は皮膚科医の冒涜であると述べる学会の体質はいったに何なのでしょうか。ステロイドやプロトピックで治りにくくなっているアトピー性皮膚炎患者さんの生の声を全く聞こうとしない態度は、昔言われた象牙の塔の中の人々という批判は今でも当てはまっているとしか言いようがないように思います。
 貴社の記事は、タイトルは若干的外れ(人目を引く効果は十分あります)と言わざるを得ませんが、上記のような事態を改善させ、ガイドラインの治療で困っておられる患者さんにとって大きな力になると考えます。今後ともこのような記事を多く掲載していただくよう心からお願いいたします。

皆様

週刊文春の12月22日号にノンフィクション作家、奥野修司氏の面白い論文が出ました。表題は「アトピー治したければフライパンを使うな」(48-49頁)というもので、私の投稿のタイトルと同じく少し変ですが、中身は相当しっかりしています。ご一読ください。

果物に含まれる水分

2011年12月14日 | Posted by 佐藤 健二 in その他 - (0 Comments)

脱ステロイド入院中に水分制限を実施する。その際、自分で購入試食する果物の水分量が問題となる。その目安となる表を掲示する。女子栄養大学出版部発行、香川芳子監修の「五訂増補 食品成分表2010」(2009年)から引用した。
果物         水分%   廃棄率  廃棄物  購入物の重さ中の水分%
いちご         90      2              88
いちじく        85     15              72
みかん        84-88    15            70
オレンジ        88     40           53
かき          83      9                76
キウイ         85     15             72
グレープフルーツ    89        30             62
さくらんぼ       81-83   10             74
すいか         90     40          54
日本なし        88     15          75
西洋なし        85     15          72
夏みかん        89     45           49
パインアップル     86     45          47
同 缶詰        79      0          79
はっさく          87     35          57
バナナ         75     40          45
びわ           89     30          62
ぶどう          83     15          71
ぶんたん         89     50          45
ぽんかん         89     35          58
まくわうり        91     40          55
メロン           88     50           44
もも             89     15           76
りんご            85     15果皮、果しん部 72

水分の%は廃棄部位を含まない可食部100gあたりの数値。
廃棄率は、通常の食習慣において廃棄される部分を、食品全体あるいは購入形態に対する重量の割合で示す。例えば、リンゴでは皮と芯部分を捨てるということです。

従って、例えば、一個200gのりんごを皮をむいて芯を除いて食べるならばその時の水分摂取量は次のように計算される。
(200 - 200 x 0.15) x 0.85 = 144.5 (ml)
だから、重量の70%程度の水分量となる。
一般的には
(測定重量-測定重量 x 廃棄率) x 水分%=摂取果物の含有水分量
ただし、廃棄率と水分%は比率表示である。

購入物の重さ中の水分%は、例えば1kgのスイカを買ってヘタと種をのぞいて赤い部分を全て食べれば、1kgの54%、540mlの水を飲むことになるということです。

第1回アトピー勉強会報告(2011年12月3日開催)

 12月3日は生憎午後から雨となりましたが、30名ほどの参加者がありました。いつも参加してくださるアトピックの方をのけても、入院患者さんを含め新しい方が20名を超えていました。遠くは静岡からも参加されました。途中10分と5分の休憩を入れて、午後2時丁度から午後5時20分まで勉強会は長く続きました。内容は1.日本皮膚科学会中部支部での私の発表、2.発表後の討論の説明、3.先日のNHKの放送(11/20)に関連した話、4.アトピーの標準治療の説明、5.ガイドラインのステロイド関連記述の紹介、6.古江論文の治療成績の紹介、7.脱ステロイド・脱保湿療法とは何かについて、8.小児のアトピー治療の原則、9.アトピー性皮膚炎はアレルギー疾患か?10.ガイドラインに基づくステロイド離脱について、と順に話をしました。そして最後の45分ほどは質疑応答でした。個人的な質問や学術的な質問が出ました。私の話は2時間ほどありましたが、じっくりわかりやすく説明しようと思えば2時間でも足りないと感じました。
 この勉強会の準備をしていて、一番注目すべきと考えたガイドラインの記述は「アトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用薬の副作用との混同」、「ステロイドを含まない外用薬に切り替える際には、1日1回あるいは隔日投与などの間欠投与を行いながら、再燃のないことを確認する」、「1日2回の外用を原則とするが、再燃を生じないことが確認されれば漸減ないし間欠投与に移行する」などに表れているステロイドを減量した場合に悪化する原因をアトピー性皮膚炎の悪化と考えるかステロイド依存症の表れと考えるかあるいは少なくとステロイド依存症の離脱症状が入っていると考えるかだと思いました。ステロイドを長期に外用していた場合にステロイドを減らすあるいは中止すると患者の皮疹が悪化しますが、ガイドラインを書いた先生方はこれはアトピー性皮膚炎の悪化だと断言される。しかし、引用文献はありません。脱ステロイド派はステロイド依存症があるための離脱症状が中心だと考えています。少なくともクリーグマンがこの現象を1979年に指摘しています(Kligman AM, Frosch PJ, Steroid addiction, Int J Dermatol 1979; 18: 23-31)。最近の論文ではCork MJ らは(J Invest Dermatol 2009; 129: 1892-1908)「外用コルチコステロイド中止後のリバウンド悪化は、サーファクタントやテープ剥がしのような他の形態のバリアー破壊後に観察されるリバウンド悪化との類似性を持っている」と述べ、ステロイド離脱後のリバウンド現象を承認しています。この点についてもっと明確な推論や実証研究が急務と考えました。患者さんの観察から何かが生まれてくるかもしれません。是非一緒に考えていただければと思います。