脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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 2013年6月14-16日に第112回日本皮膚科学会総会が開かれた。14日のイブニングセミナー5で「経皮感作とアレルギーマーチ」と題して島根大学医学部皮膚科教授、森田英伸先生が講演された。講演抄録には、「最近、Lackらにより食物アレルゲンの経皮感作が食物アレルギーの発症に重要であることが提唱され、加えてアトピー性皮膚炎患者でフィラグリンの異常が見いだされたこと、加水分解小麦含有石鹸の使用で小麦アレルギーが多発したことから、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症には皮膚バリアの障害が根本であると考えられるに至った。」とある。
 アトピー性皮膚炎患者は皮膚バリア機構が障害されているから、一般人より経皮感作が高頻度に起こるであろうと多くの学者が考えている。上記学会でもこの考え方に沿って幾つかの発表があった。そして、バリア機構を正常に復するためにはステロイド外用剤を使用して皮膚の傷を治さなければならない、放置していればアレルギーマーチが進行して種々のアレルギー疾患を獲得することになると主張されている。この考え方は、茶のしずく石鹸でアレルギーを獲得した人の中で、アトピー性皮膚炎のない一般人よりアトピー性皮膚炎患者において小麦アレルギーの発症頻度が高い場合に初めて主張できる考え方である。このイブニングセミナーの座長をされた京都大学医学部皮膚科教授、宮地良樹先生は講演が終わった後で次の質問をされた。「小麦アレルギーを発症した1800人ほどの患者さんの中でアトピー性皮膚炎患者さんは何パーセントぐらいですか」と。森田教授の答えは次のような内容であった、「小麦アレルギーを起こした患者さん1800人ほどの10%ぐらいです。一般の人口中のアトピー性皮膚炎患者さんの比率はだいたい10%ですので同じくらいの頻度です。」と。この数値から確実な見解を出すには、アトピー性皮膚炎患者とそうでない人の二グループ間で、石鹸使用頻度の差、アレルゲン(あるいはハプテン)の違いによる差、アジュバントの働きの違い、ステロイド外用の影響などを検討しなければならないが、少なくとも森田教授が示した数字からはアトピー性皮膚炎患者において経皮感作が高いとは言えないことを示している。
 一般に、角層は低分子量の脂溶性ハプテンを透過させるが水溶性で大きな多糖タンパク質を通さないと言われている。今回問題になっている加水分解小麦のグルパール19sは6万以上という分子量でありこのような大きな分子量をもつものでも差がなかったということであるならば、アトピー性皮膚炎患者にとって経皮感作は一般人と同じ程度に心配すればよいということになる可能性も秘めていると言えよう。また、アトピー性皮膚炎の悪化にIgEが関係するという説も怪しいものであり、この点からも経皮感作を重大視する必要はない。いずれにせよ、現段階でアトピー性皮膚炎患者に、アレルギーマーチが進行するからステロイドを塗って傷を早く治せという治療方針は説得性がないことは明らかである。