脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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皆様

Tommyさんが、ぬまじりよしみさんの漫画第2弾、モッチー編を英訳してくださいました。以下をご覧ください。
http://skinofrose.blogspot.jp/

ひろめてください。特に外国の方とお知り合いの方はどんどん広めていただくとありがたいです。

日本語は以下で読めます。

http://www.hannan-chuo-hsp.or.jp/shinryoka/hifuka/index.html

 アトピー性皮膚炎モデルマウスでワセリンを外用するとアトピー性皮膚炎が予防できるというニュースがでました。簡単に要約しますと、JAK1という蛋白質の異常でマウスの皮膚が痒くなり皮膚炎を起こすようになる、ワセリンを塗ったら皮膚炎の発症を遅らすことができる、だからヒトではワセリンを塗っておればアトピーを予防できる可能性がある、という内容です。
 この実験で確実に言えることは、JAK1という蛋白の異常でマウスの皮膚のバリア機構が低下し皮膚炎を起こすということです。しかし、そこから先は注意して話を聞く必要があります。
 まず次の表を見てください
                マウス         ヒト
皮膚炎発症率       100%         20%
ある時期に治癒      不明(恐らく無し)   2歳で相当数治癒

この表を見るだけで、作られたマウス(Spade マウスと命名されています)の皮膚炎がヒトのアトピー性皮膚炎とかなり違うものであることがわかります(これまでも幾つかのアトピー性皮膚炎モデルマウスが作られましたが同じ欠点があります)。だから、このマウスの皮膚炎をヒトのアトピー性皮膚炎と同じものと考えて種々の考察をすることは危険を伴います。ヒトのアトピー性皮膚炎と同じものでないことは発表した人々も知っています。発表した論文の題を見ると次のようになっています。
Hyperactivation of JAK1 tyrosine kinase induces stepwise progressive pruritic dermatitis.
最後の2単語「pruritic dermatitis」は「瘙痒性皮膚炎」であって「アトピー性皮膚炎」ではありません。
 ワセリンを塗ったら皮膚炎が予防できるという話を検討してみましょう。ワセリンを塗らなかったマウスでは、出生後7週で皮膚炎発症が始まり9週で100%のマウスに皮膚炎が発症し12週まで減少せず続いています。一方、ワセリンを塗ったマウスでは9週から発症が始まり12週で60%のマウスに皮膚炎が発症しています。図には12週までの結果しか出ていません。ワセリンを塗らないマウスでは皮膚炎発症が100%に達するまでに2週間しか要しませんでしたが(1週間で50%)、外用したマウスでは3週間で60%発症していますので(1週間で20%)、あと2週間ほどあれば100%発症する勢いです。マウスの寿命は約2年(104週)ですので、この後の実験をしなかったとは考えにくいです。恐らく実験はこの後も続けられており、14-15週頃にはワセリンを外用したマウスでも全例皮膚炎を発症したのだと推測ます。そしてそのことは論文には出したくなかったのでしょう。だから、発症を遅らすことはできても、発症させないことすなわち予防することはできなかったことになると思います。
 なお、この実験で重要なことの一つは、JAK1蛋白異常で生じてくる皮膚炎を起こす要素が皮膚組織にあり、免疫系にないことがあります。このことは、ヒトでJAK1蛋白異常があり皮膚炎が起こる場合には免疫アレルギーが関与しないことを意味しています。JAK1蛋白異常がヒトのアトピー性皮膚炎と関係があるなら、アトピー性皮膚炎のアレルギー説は更に後退することになるでしょう。