脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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12月14日(日)の朝日新聞に、つげ書房新社から以下のように新版の広告が掲載されました。

「新版 患者に学んだ成人型アトピー治療、難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法 25日発売 
佐藤健二著/A5判並製/256頁/定価2400円+税
ステロイド剤や保湿の中止により、難治化アトピー性皮膚炎の依存症を軽減・消滅させ、アトピー性皮膚炎を自然治癒に向かわせる。 改訂新版」

本の最後には
「2015年1月10日第1刷発行」
とは出ていますが。

ご意見いただければありがたいです。

アトピー性皮膚炎の原因についての試論
2010.6.6
1.はじめに
 この試論の出発点は、1995年9月26日に行った愛知県医師会の健康教育講座で一般人向けに話したのが初めてです(健康教育講座講演集(14)号、25-48頁,平成9年3月31日発行)。その中では、以下の内容の重要な点がほぼ出ています。重要な点を述べる前にこのように述べています。「今回アトピー性皮膚炎の治療ということでお話しさせていただくことになりましたが実際によく考えてみますと、非常に難しい内容だなあと後になって気づきました。おそらく学会かなんかで流行の学問の話をするのでしたら、難しい単語、難しい内容をしゃべれば適当に誤魔化すことができると思うんですけれども、一般の方々の場合は一番本質的な質問をおそらくされるだろうなと考えました。そうしたら、これはえらいことを引きうけてしまったと思って必死になって自分なりに考えた結果をお話しするということになりました。−−−今色々言われている学説についていくつか問題がありますのでそれをお話しして、その後で私自身のアトピー性皮膚炎に対する考え方、これは今まで誰も言ったことのないような内容になると思います。‐‐‐私自身のアトピー性皮膚炎のとらえ方についてようやく出した結論を話します。考えた一番大きな問題点はアトピー性皮膚炎というのは成人になるとほとんど湿疹が起こらなくなるということです。」と。
 重要な内容は「患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法」(つげ書房新社、2008年、佐藤健二著)の第16章 アトピー性皮膚炎の学説、2.アトピー性皮膚炎は「皮膚の適応性増殖調節不全症候群」?(131-132頁)、の中で述べられています。
 このブログのひとつ前に書きました東京大学皮膚科教授の佐藤伸一先生の説(atopic ホームページ、佐藤先生のブログ:2010年4月24日、新しい東大皮膚科教授が考えるアトピーの原因)は、皮膚の異常で説明しようとする点は正しいと思いますが、成人になったらなぜ湿疹が起こらなくなるかという点について述べられていません。講演された後、この点を東京女子医大の川島先生が「突っ込み」の質問をされています。この点を解決できるのは成長を考慮した学説以外にはないと思います。
 少し難しい内容ですが、じっくりと検討していただければ嬉しいです。
2.試論
 日本皮膚科学会はアトピー性皮膚炎の原因は示していません。「アトピー性皮膚炎の原因は何ですか?」の質問に答えるには、まず「アトピー性皮膚炎」の定義をする必要があります。対象が明確にならなければそれの原因も明確になりません。
(1)日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎(AD)の定義
ガイドラインによると定義:は、「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。」(下線筆者)と記されています。下線部では時間経過を示していますが、乳児から成人に至る成長過程での皮疹の変化を含んでいないことに注意してください。
病態についてガイドラインは「表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と瘙痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。アトピー素因とは、①家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)があること、または②IgE抗体を産生しやすい素因をさす。」と記述しています。実験で出てきた結果をまとめて述べていますが、これまで蓄積されてきた長い臨床経過についてはほとんど無視しています。
(2)ADを他の疾患から区別する特徴
ある疾患を他の疾患と区別する方法は、多くの症例の中で特定の患者群に共通で他の患者群とは違う一連の症状を認識することです。ADの定義を考えるにあたって注意すべきことは、勿論全ての疾患で言えることですが、新しく分かってきた検査やその値の取り扱いについて、それまで経験的に集められてきた臨床的観察の中にどう位置づけるかが大変重要だということなのです。検査で分かってきたことからその疾患の本質を組み立てようとすると、検査が疾患の全体像を代表していない限り疾患全体のごく一部しか表現していない可能性が高いため、疾患の概念をごく偏ったものにする危険性があるからなのです。長期にわたって積み重ねられてきたアトピー性皮膚炎の基本的な特徴は次の4項目に絞ることができると思います。
1)乳児から成人に至る成長過程で皮疹発生部位や皮疹形態が変化します
 乳児期には顔面、頭部、上胸部に湿ったビラン面の多い皮疹が出現し、概ね2歳頃までにいったん消失します。小児期は肘や膝の伸側にジクジクする滲出性の紅斑や丘疹が出現し、徐々に肘窩膝窩の苔癬化局面が目立つ皮疹へと移っていきます。思春期に再び一時的に症状が強くなり、肘窩膝窩に漿液性丘疹が混在する乾燥した苔癬化がよく目立つ皮疹となります。このように成長の時期によって皮疹の特徴は異なりますが、アトピー性皮膚炎で最も特徴的な皮疹は肘窩膝窩などに出現する苔癬化局面であります。
 (一部の皮疹では真皮成分の増殖の強い場合もありますし、白色皮膚描記症のように血管の異常も含まれることもあります。真皮での変化の意義については今後の検討課題としたいと思います)
苔癬化の病理組織像は、表皮突起の延長と真皮乳頭層上の表皮の肥厚です。表皮突起の延長をきたす他の疾患に尋常性乾癬があります。尋常性乾癬との違いは、尋常性乾癬では表皮突起の延長はありますが、真皮乳頭層の延長が起こると共に真皮乳頭層上の表皮は菲薄化していることです。アトピー性皮膚炎でも表皮突起の延長はありますが、真皮乳頭層上の表皮は肥厚しており、尋常性乾癬の表皮突起の延長の性格とは異なります。尋常性乾癬では表皮細胞の自発的増殖があります。アトピー性皮膚炎の場合は掻破による受動的表皮増殖です。病理組織学的には神経皮膚炎(ヴィダール苔癬)は、限局性のアトピー性皮膚炎と考えることができます。
アトピー性皮膚炎の病理組織像がⅣ型アレルギーに似ているので、IgEにⅣ型アレルギー的働きを期待する考え方があります。一次刺激性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎との病理組織学的違いは、一次刺激性皮膚炎では炎症のごく初期に好中球の浸潤があるだけで、それ以後は区別がつきません。だから、リンパ球が表皮や真皮に多数存在することだけからⅣ型アレルギー説を出すのは軽率であるように思います。
2)アトピー素因が血族者に多くみられます
アトピー素因が血族者に多くみられますので、AD患者はⅠ型アレルギー現象を持ちやすい遺伝的特徴を有することは間違いないと思います。しかし、IgEのⅠ型アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因であるという説については次のような矛盾があり、納得できません。矛盾の基本は、IgE値高低と症状の強弱が並行しないことです。具体的には次のことです。
①IgEを遺伝的に産生することができない患者でも発症
②IgEの産生が始まるか始まらないかの生後2カ月頃から発症
③IgEの値が正常でも発症
④IgEは症状の悪化時には高値を示しますが、適切な治療をすれば高値でも湿疹は良くなります。皮疹が良くなった後しばらくしてIgEの値が低下します。(IgEの血中半減期が2−5日であることを熟考すべきと思います)
ステロイドを子供の時に使うと抗原に対するトレランス発生を妨害するのでアトピーが悪くなるという説は、結局IgEアレルギーが皮膚障害を起こすという説ですので間違いと思います。
3)皮膚は乾燥します
 セラミドの減少やフィラグリン遺伝子の異常など皮膚の乾燥と関連のある機構が分かり始めています。しかし、成長とともにこの症状も軽くなります。皮膚の乾燥は瘙痒を起こし、掻破による皮膚障害を起こします。
4)痒みが強い疾患です
 痒みが突発する特徴もあります。抗ヒスタミン剤が止痒に効く程度は少ないというADの痒みの特徴があり、ヒスタミンによる痒みの成分が少ないことが一般的に認められています。痒みには中枢性のものもあり、後述する(3.の3))ステロイドの中枢作用にも注意すべきと思います。
 以上の4つがADの主要な特徴と考えることができます。そして、この中で最も特徴的であると考えるのは肘窩膝窩の苔癬化局面です。すなわち、掻破による表皮の肥厚が最も大きな特徴と考えます。
(3)アトピー性皮膚炎の病態生理
1)皮疹発生部位や皮疹形態の変化と身体成長曲線の相関
これらの特徴をうまく説明できる病態発生理論を考えていた時、全く偶然でしたが身体の成長曲線の動きと相関していることに気付きました。特に成長曲線の微分値(成長速度の速さ)の図が最も明瞭でした。すなわち、2歳頃までに急激な成長が終わり、2歳から思春期までにはだらだらとした成長速度の減少があり、そして思春期に一時的に成長が早くなって成人で成長が止まる、という変化です。
体が大きくなるにつれて皮膚は成長しなければなりません。2歳までの皮膚は、体の成長が極めて速いため皮膚の増殖が追いつかず、皮膚は軽度に障害された状態となります。この障害が治る時に、瘙痒あるいは瘙痒誘発因子が出現して掻破してしまいます。これに加えて、掻破による皮膚の削り取りを補うための増殖も上手くできないため、更に悪化します。しかし、2歳になる頃には体の成長速度が急速に低下し、皮膚の増殖能力が不十分でも体の成長についていけるようになり、皮膚は改善することになります。乳児では、頭部と上胸部が最も成長率が高いので、ビラン性、湿潤性皮疹が顔面、頭部、上胸部に発生することが理解できます。下肢などでは、増殖が追い付かず乾燥性湿疹のような亀裂が見られることもあり、痒みを起こします。
 2−3歳頃は体動が増え始めるため体の伸側が擦過されるようになり、このような皮膚の剥奪に慣れていないための増殖不全が起こり、肘や膝の伸側に炎症が起こります。2歳以降は増殖速度が落ちますが、思春期に向かって少しずつ速くなっていきます。この間、体全身が概ね同じように成長します。年齢が高くなるにつれて肘窩、膝窩、頚部、手関節、足関節などに典型的な苔癬化が出現します。これらの部位は良く動く関節部位です。関節部の増殖調節は他の部位よりも難しいと考えられます。例えば次のことはご存じでしょう。ストッキングをはいた膝の関節部分は、曲げるとできるだけ縮小しようとし、関節屈側部に空間ができます。皮膚も体から切り取れば収縮します。しかし、実際に膝を曲げても関節屈側部には空間形成は起こりません。ここには微妙な調節機構があるはずです。
思春期では体全体が急激に伸びますがその速さは乳児期ほどではありません。そのため、小児期の症状、関節部に症状が強く出る形となります。
 思春期が過ぎればADはほとんどなくなりますが、このことは体の成長が終わることで説明できます。しかし、皮膚は生涯増殖し続けますので、この増殖による悪化の可能性すなわちアトピー性皮膚炎の症状が少しは残ることは考えられます。皮膚を含め体には代償作用がありますので、皮疹が起こらなくなることは大いにありうると考えられます。
 以上の考察は細胞の数的増加のみを問題としています。
 細胞の数が減り皮膚を増殖させなければならない時に皮膚が悪化するのなら、お風呂で皮膚をよく洗うことは皮膚を削り取ることになり、アトピー性皮膚炎を悪化させる大きな要因になると言えるでしょう。風呂にあまり入らないことによって皮疹が良くなる効果は、ここの説明によって理解できるでしょう。
2)表皮細胞の質を変える増殖
表皮細胞の質を変える増殖というものは無いのでしょうか。生物の進化を考えれば、「皮膚は環境変化に対して常にその環境に適した細胞を作ろうとする」という仮説は、大いにありうると思えます。例えば、胎児が羊水中にいる時には周囲が水である状態に適した表皮細胞が存在するでしょうし、大気中に出れば空気に適した表皮細胞ができるでしょう。子供の誕生はこの変化を起こさせるはずです。事実、出産数日後に表皮は一度剥がれおちます。数日間に起こってしまうのですから、出産後の皮膚の環境への適応現象は非常に早く起こっていると考えられます。皮膚はこのようなすごい能力を持っていると考えます。
 AD患者には季節的に夏に悪化する人や冬に悪化する人や両方の季節で悪化する人がいます。春の悪化では花粉の季節であるので花粉がアトピーを悪化させるのではないかと考えやすいです。花粉症はIgEのⅠ型アレルギーです。IgEアレルギーがADと無関係であることから考えると春の悪化は花粉以外の要素を考えるべきと思います。春秋に悪化する人は次のような仮説は無理でしょうか。人間も何十万年前は有毛動物でした。犬などは春秋に毛が生え変わります。表皮細胞の増殖が起こらないとこの現象は生じません。この遺伝子の働きがまだ残っているならば、春秋に皮膚に増殖現象が起こるでしょう。増殖調節が旨くできなければ皮膚に異常をきたし痒みを起こさせても不思議ではありません。湿度が高くなる夏や湿度が低くなる冬にその季節に適した皮膚を作ろうとすると、質的に違う細胞を増殖させる必要が出てきます。この場合も同じような痒みを起こさせる状況が生まれるでしょう。以前ある所で聞いた話ですが、ネズミの生活環境で湿度を大きく変えると基底細胞の増殖が少し増えるという発表がありました。環境の変化によって細胞の増殖が起こるということを示しています。そして環境が質的に違えば、生じてくる細胞も質的に違うものが生まれてくることを十分期待できると思います。
3)アトピー性皮膚炎悪化での精神的要素
アトピー性皮膚炎が悪化する時、精神的要素のあることは古くから言われています。子供に勉強しなさいと言うとすぐ掻き始めます。恋人との仲が悪くなると皮疹は悪化し、別れると皮疹が改善した例もあります。
 長期にわたってステロイドを外用したAD患者で、成長障害、生理不順、発汗異常、乳汁分泌異常、抗利尿ホルモン分泌亢進など脳神経が関係した異常が時々認められます。他の疾患、例えば尋常性乾癬などでは聞きませんので、この現象はADにしか起こらないことだと考えられます。すなわち、ADではステロイド外用による刺激によって神経に異常が起こりうるということです。ステロイドを外用しなければこのような異常は起こりません。この異常はステロイドなどの異物による誘発的異常ですので、ステロイドを外用しなければ発生しません。また、今までの経験からすれば、皮疹が改善すればこの異常は元に戻ります。これらの異常が痒みとどのようにつながっているかは全く分かりません。
 いずれにせよ、精神神経の働きによって痒みが誘発あるいは認知されやすくなって(痒み神経の閾値低下)掻破し、皮疹を悪化させることはあるということです。しかし、精神的異常がまずあって皮疹の悪化が起こるという見解に対しては、ある精神科医に言われた言葉を記しておきたいと思います。「アトピー患者の治療(脱ステロイド・脱プロトピック・脱保湿治療)では、まず精神科的なアプローチで何とかしようとしても駄目です。AD患者は皮疹が良くなれば精神状態も良くなります。だから、まず、皮膚を良くして下さい」と。この言葉を聞いてから、まずは皮疹を良くする方法を考えるようにしました。皮疹が改善すると、患者の精神状態は確実によくなります。精神を良くするより、皮疹を良くする方が先であることが分かりました。「精神をまず変えなさい」では旨く行かず、順序は逆だとおもいます。しかし、離脱失敗に陥りやすい性格というものはあるようです。この性格が邪魔をして、するべきことができなくなり、脱ステロイド治療が失敗したことはあります。
4)ステロイド外用によるADの誘発
ステロイド外用でADを誘発することがあるかどうかについてですが、そういうことはあると考えています。ステロイド外用は、外用部位だけでなく全身の皮膚に影響を与えています。頭部の脂漏性皮膚炎で長期にステロイド外用をしている人に、それまでに出たことのないADが肘窩膝窩に出現したことは何人かで経験しています。この誘発はすべての人間に起こるのではなくて、ADの素質を持っているがそれまで出ていなかった人にステロイドを外用することで誘発されたと考えています。
 細胞の増殖との関連では、ステロイド外用による表皮委縮が何らかの情報を伝達し、増殖の異常をきたすと考えられないことはないでしょう。
(4)アトピー性皮膚炎の原因
 皮膚は、皮膚が覆う個体を守るため、皮膚が置かれる種々の環境に対してその環境に適した皮膚を作り上げなければなりません。この調節は正常人にあっては厳密に行われています。皮膚細胞が単に数的に増殖する場合や環境に適合した皮膚細胞に変わるために増殖する場合の二つの増殖で、必要な数や質を調節する機構が遺伝的に不完全であると異常が起こります。増殖調節機構の遺伝的不完全さによる皮膚障害と瘙痒の発生、掻破性皮膚障害がADの原因である。この増殖には多くの遺伝子が関与しているはずで、多因子遺伝性疾患と考えます。従って、ADは皮膚の適応性増殖不全症候群と表現できる疾患です。また、この増殖調節機構は不完全ですが、体全体の調節機構の代償作用により、時間はかかるけれども正常の皮膚に変化します。すでに述べましたが、環境の変化とは皮膚が増加しなければならない体の成長、皮膚が適応しなければならない温度や湿度の変化、反応性増殖が必要な皮膚の擦過、などです。