脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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米英での脱ステロイドに関する重要な記述 2021.4.29発

 

【アメリカ】

脱ステロイドに関して重要な記述がありました。少しサボっていて読めていなかったのですが、世界的に有名なアメリカの皮膚科の教科書の2019年の第9版(Fitzpatrick’s Dermatology, p.377)に「ステロイド離脱症候群(steroid withdrawal syndrome)」の記述がありました。以下にその部分の拙訳を記します。

 

「外用グルココルチコイドの副作用は局所の作用と視床下部下垂体副腎系の抑制による全身的な作用に分けることができます。局所の副作用には皮膚線条、皮膚萎縮、口囲皮膚炎、酒さ性痤瘡の発生が含まれます。外用グルココルチコイドを日常的に長期に使用すると、特に顔面では、ステロイド離脱症候群(steroid withdrawal syndrome)をも起こし得ます。その症状は、外用グルココルチコイドを中止すると、強い紅斑形成、むくみ、焼けるような感覚が起こるという特徴をもっています。」

 

【イギリス】

2021年1月にイギリスで「外用ステロイド離脱に関する国立湿疹協会と英国皮膚科学会の共同見解声明」が出されました。以下に要点を記します。

 

外用コルチコステロイドは湿疹やその他の炎症性皮膚病変に対する効果的な治療薬ですが、他の治療薬と同じく副作用を持ちえます。湿疹を持っている多くの人々は外用コルチコステロイドの使いすぎやそれの使用を止めるときに起こりうる影響に関心を持っています。人々が影響を表現するために言葉や病名を異なって使用すると誤解も生じかねません。私たちは、本文書で、使用される用語を明確にし、上記の関心に適切に答えたいと願っています。—

 

私たちは、発赤(redness)という術語を、桃色、赤、紫から元々存在する色調のかすかな暗色化までを含めた一連の色全体に対して用います。—

 

  • 外用コルチコステロイドの使用過多の結果

副作用は強力な外用コルチコステロイドの長期にわたる日常的な使用によって起こります(通常は12ヶ月以上)。赤皮症Red Skin Syndromeや外用ステロイド嗜癖(しへき)Topical Steroid Addictionという用語は過剰な外用コルチコステロイドの使用によって起こりうるいくつかの異なった病的状態を記述するために用いられています。— もし人々が下記の問題を経験すれば、自分たちの健康管理の専門家に助言を求めるべきです。ほとんどの場合、外用コルチコステロイドは中止されるべきです。

a.萎縮、b.酒さ、c.痤瘡、d.口囲皮膚炎—

  • 外用コルチコステロイドに対するアレルギー反応

湿疹患者の何人かは外用コルチコステロイドに対するアレルギーである。外用コルチコステロイドに対する炎症はステロイドの抗炎症効果より強くなり得て皮膚状態は改善しなくなる。これは時々、外用ステロイド嗜癖Topical Steroid Addictionと言われる(なぜなら同じ効果を得るために今以上の外用コルチコステロイドが必要であるかのごとくに見えるからである)。悪い原因は、ステロイド自身というよりも、ステロイドクリーム中の防腐剤や他の構成成分であることがあります。パッチテストで悪い原因を決めることが出来ます。—ステロイド自身に対するアレルギーは相対的にまれで、違うタイプの外用コルチコステロイド製剤に替えることで克服可能なことがあります。

  • 基礎にある炎症を抑制できない状態

何人かの人では、外用コルチコステロイドを継続的に正しく使用しているが、その人々の湿疹が単に酷すぎるので外用コルチコステロイドでは抑制できないでおり、炎症が持続あるいは悪化します。この状態では免疫機構を抑制する薬が普通必要とされます。

  • 外用コルチコステロイド治療の中止で起こること
    1. リバウンド紅斑 外用コルチコステロイドは血管収縮剤として知られています。それは小さな皮膚血管を閉鎖させ、それによって皮膚は蒼白になります。治療を中止すれば血管はリバウンド拡張します。そして発赤と腫れが起こります。これは普通、時間とともに落ち着きます。
    2. 顔面の発赤 外用コルチコステロイドの過剰使用で起こった酒さ、痤瘡、口囲皮膚炎はその治療中止で悪化します。これはステロイドが炎症を抑制しているからです。
    3. 急激に悪化する発赤、痛み、痒み、落屑、リンパ節腫脹 これらは抗炎症ステロイドがなくなった後に起こる基礎にある湿疹の再発か悪化であるかもしれません。代りの抗炎症免疫抑制治療や薬が必要です。
    4. 副腎機能低下 これは深刻ですが非常にまれです。長期にわたって広範に非常に強い外用コルチコステロイドを外用するとそのいくらかは血流に吸収されます。これはない憎悪副腎皮質からのステロイドホルモンの自然な産生を抑制し得ます。—
  • 湿疹に対する一つの治療方法としての外用ステロイド離脱 (Topical Steroid Withdrawal as a treatment approach for eczema) 外用コルチコステロイドの使用に関する関心は何人かの人々に外用コルチコステロイドなしで自分たちの湿疹を治す試みに向かわせている。最初、湿疹は悪化しがちである。しかし何人かの人々は次のことを見いだしている。その後しばらくすると湿疹は落ち着き、単純な軟化剤あるいは非薬物治療と、ストレスのような悪化誘発因子を減らすように生活スタイルを変えることで湿疹には対処できます。もし湿疹が持続あるいは再発するなら、そしてその人が外用コルチコステロイドを再び使いたくないのなら皮膚科学的治療の選択肢としては以下のものがあります。
    1. 保湿剤の継続使用で乾燥皮膚を治療し、自然の皮膚防御機構を修復し予防すること
    2. 悪化時の冷浴、包帯使用
    3. プロトピックなどの使用
    4. 光線治療
    5. 全身に影響のある免疫機構を抑制する経口あるいは注射薬の使用 これらは外用コルチコステロイドより深刻な副作用を持ちえますし、普通外用コルチコステロイドを使ってでは治療できないより重傷の湿疹患者に普通に処方されています。

 

米英でのステロイド離脱症候群の取り扱いへの佐藤健二のコメント

 

【アメリカについて】

「ステロイド離脱症候群(steroid withdrawal syndrome)」が問題として取り上げられたことと外用ステロイドの「局所の副作用」として評価されていることは喜ばしいことです。しかし、顔面での現象に限っており全身で起こることについては述べられていないことと、ステロイド依存性皮膚症に対する第一段階の治療として評価されていない点が残念です。

 

【イギリスについて】

以前から感じていたことではありますが、「外用ステロイドから離脱するときに起こる症状」と、「外用ステロイドから離脱せざるをえない病態」の説明用語が明瞭に区別されずにアメリカ等で使用されていると感じていました。赤色皮膚症候群(red skin syndrome)は両者に使用できますが、ステロイドとの関係が示されていませんので適切な言葉ではないと考えます。ステロイド離脱症候群(steroid withdrawal syndrome)は前者を意味しますが、ステロイドを止める原因となる病態を説明していないという意味では不十分です。外用ステロイド嗜癖(topical steroid addiction)は後者を意味していると思いますが、日本語的には好んで行うという意味もあります。実際は嫌でも使わざるをえなくなっているという意味ではこの言葉は使いたくありません(英語でも欲するdesireと言う意味があります)。私はステロイド依存性皮膚症(steroid dependence dermatosis)を好みます。イギリスの文書は言葉の意味を正確に使おうとする努力が見られ、好ましいと考えます。

声明は、赤み(発赤)については桃色から赤色そして紫色までの一連の赤系統の色と既存の皮膚色のかすかな暗色化を含ませるといっています。赤系統の色の変化は毛細血管の収縮拡張と酸素濃度の変化により変わると私は考えます。しかし、暗色化は色素沈着によると考えられますので別に考える必要があると思います。

アジソン(Addison)病など副腎皮質機能低下症では全身の色素沈着が起こります。皮膚の炎症では炎症部位のみに色素沈着が起こります。2017年にねずみでではありますが皮膚でのコルチゾール産生が初めて証明されました。同じ実験方法は人間には適応できませんので人間で直接の証明はされていませんが、人間の皮膚にもネズミと同じく内臓の副腎皮質と同じ代謝酵素が存在し、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の存在も証明されています。ACTH遺伝子の中には色素細胞刺激ホルモン(αMSH)遺伝子があり、皮膚にストレスがあればACTHが分泌され、コルチゾールを出すとともに色素細胞刺激ホルモンが働き、炎症の部位だけで色素沈着がおこると考えます。薬物としてのステロイドホルモンを全身的(内服あるいは点滴)に投与すると内臓の副腎抑制が起こるわけですから、同じ代謝系を持つ皮膚でも外用でステロイドを与えるとコルチゾール産生が抑制されるはずです。ステロイド外用で皮膚でのコルチゾール産生が抑制されている状態でステロイド外用が中断されると、外用されたステロイドが不活化され皮膚にステロイドが無くなり、ストレス対応ができなくなり、激しい炎症症状が出現すると考えられます。この症状がステロイド離脱症候群の言葉で表現する症状と考えます。色素沈着の重要性を記述せずにいることが皮膚におけるステロイドホルモン代謝の重要性を無視していることを意味していると思います。

「1.外用コルチコステロイドの使用過多の結果」の記述はその通りであり、「2.外用コルチコステロイドに対するアレルギー反応」については、私も確認はしていますがごく少数です。「3.基礎にある炎症を抑制できない状態」の可能性は考えられますが、これまでのところ確実な症例の経験はありません。現時点では、外用ステロイドを継続的に使用していると、人工のステロイドを不活化する酵素活性が高まり、その結果としてステロイドが効きにくくなる可能性を考えています。「4.外用コルチコステロイド治療の中止で起こること」については、「リバウンド紅斑」と「顔面の発赤」はステロイド離脱症候群の症状の一部を正しく説明しテイルと考えます。それ以外は前段の皮膚でのステロイドホルモン産生と外用ステロイドによるコルチゾール産生抑制によって起こってくる事態の内容を対置します。「5.湿疹に対する一つの治療方法としての外用ステロイド離脱」は難治化アトピー性皮膚炎の治療として初めて脱ステロイドを承認した記述です。難治化アトピー性皮膚炎にとって大変に素晴らしい進歩だと考えます。しかし、「非薬物治療と、ストレスのような悪化誘発因子を減らすように生活スタイルを変えることで湿疹には対処できます」とのべているところを更に詳しくさせて、脱保湿療法を記述すべきであると考えます。

以下に述べている内容は、皮膚でのステロイド離脱現象を説明しようとするものです。良く理解して近所の皮膚科医や小児科医を説得するようにして下さい。2017年11月にこのブログに書いた「皮膚の”副腎不全”」を詳しく述べたものです。

1.はじめに 皮膚でステロイド産生はあるのか?
ヒトでは、表皮細胞において視床下部・下垂体・副腎系のすべての酵素の存在することは分かっていた。それでは、皮膚だけで本当に糖質コルチコイド(いわゆるステロイド:ヒトではコルチゾール)を産生することができるのであろうか。副腎を身体から除去して皮膚に炎症を起こし、皮膚でステロイドができているかどうかを調べれば分かるが、この実験は人間ではできない。そこで研究者は、ネズミを使って実験した。
2.皮膚での産生を証明した論文
表皮の糖質コルチコイド受容体遺伝子を潰した(ノックアウト)ネズミで、副腎を除去して一週間後に皮膚にかぶれを起こし、皮膚と血液にステロイドがあるかどうかを調べる実験をすると、両者にステロイド(ネズミの場合はコルチコステロン)の存在が確認できた。この事は、皮膚だけでステロイドを作れることを示している。人間の皮膚でのステロイド産生の量を調べると、尋常性乾癬とアトピー性皮膚炎では減少していることが分かり、ステロイド外用治療の根拠ができたと論文では説明しているが、外用ステロイドによる視床下部・下垂体・副腎系の酵素機能へのネガティブフィードバック作用(外用により皮膚にステロイドが与えられると皮膚でのステロイド産生が落ちる現象)には触れていない。
文献
Hannan R et al. Dysfunctional skin-derived glucocorticoid synthesis is a pathogenic mechanism of psoriasis, J Invest Dermatol 2017; 137: 1630-37.
Slominski AT et al. Cutaneous glucocorticoidogenesis and cortisol signaling are defective in psoriasis, J Invest Dermatol 2017; 137: 1609-11
3.皮膚でのステロイド産生を予想させる臨床的観察
人間において皮膚だけでステロイドホルモンが産生されているであろうことは上記のような実験をしなくても次の事実で推測できる。人が日焼けすると日に焼けた所だけに発赤が起こり、炎症が治まると発赤の起こった所だけに色素沈着が起こる。色素沈着が生じるためには皮膚にある色素細胞に色素細胞刺激ホルモン(αMSH)の作用が必要である。色素細胞刺激ホルモンは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の遺伝子の一部に含まれている。だから、色素が皮膚だけで出現することは、その場で副腎皮質刺激ホルモンが産生されていることを示す。人間の体は無駄には作られていないとかんがえられるので、副腎皮質刺激ホルモンが産生されるがステロイドが産生されないようになっているとは考えにくい。色素沈着が起こったことは、その場所でステロイドが産生され、炎症を抑えたであろうということである。ネズミの皮膚での実験でステロイドが産生されていることが証明され、上記の色素沈着と消炎の事実を見るならば、人間の皮膚では、副腎とは別にステロイド産生が起こっていると考えなければならない。
4.皮膚での視床下部・下垂体・副腎系酵素のネガティブフィードバック現象
人間でもネズミでも、ステロイドを全身的に投与するとネガティブフィードバック機構で副腎機能の抑制が起こる。では皮膚にある視床下部・下垂体・副腎系の酵素機能に対して外用ステロイドはネガティブフィードバック作用を示すのかどうかが問題となる。この点について直接的に示す実験データは無い。臨床現場で経験することのなかでは、長期にステロイドを使用した患者が共通して訴える二つの事が重要である。一つは、治療しているうちにステロイドが効かなくなる、だから医師は仕方なく強いステロイドを使うよう指示するということ。もう一つは、ステロイドの外用の減量や中止をすると激しい症状が出てくるので止めることができない、ということである。日本皮膚科学会のガイドラインでは、長期にステロイドを外用していたアトピー性皮膚炎患者がステロイド外用治療を中止すると生じてくる症状をアトピー性皮膚炎の悪化と考えている。アトピー性皮膚炎は年と共に症状が軽くなって行くと考えられているのに、少しずつ強い外用剤を使わなければならなくなることはアトピー性皮膚炎の臨床経過とは合わない。内服を中止すると激しい症状が出ると思っているのは内服ステロイドによる副腎不全との混同であると説明しているが、外用ステロイドでは殆ど副腎不全は起こらないとガイドラインの別の場所で説明している。この二つの現象を、皮膚における視床下部・下垂体・副腎系酵素機能の外用ステロイドによるネガティブフィードバック現象であると考えると矛盾なく説明できる。外用ステロイドにより皮膚でのステロイド産生が徐々に抑制されていく過程で、ステロイド外用を減らすあるいは中止すると、皮膚でのステロイド産生が減少しているためにストレスに対して十分に対応できずに皮膚の悪化が生じるということである。また、徐々に皮膚でのステロイド産生が抑制されるため、徐々により強いステロイド外用が必要になって行くということである。
5.皮膚への安易なステロイド外用は控えるべき
皮膚に対するステロイド外用は皮膚の視床下部・下垂体・副腎系酵素機能を抑えることになるので、元々産生機能が低下しているアトピー性皮膚炎などの疾患に対しては使用について慎重になるべきであると考えられる。2018年版ガイドライン作成時には上記の論文は知られていたはずであるのに言及されていない。この論文の持つ意味を十分考えてガイドラインは作り変えられるべきであると考える。
皮膚でのステロイド産生を増加させる方策は検討されなければならないが、おそらく運動はその一つと考える。脱ステロイド中の患者が運動量を適切に増加させると皮膚の改善が早くなるという観察からの推察である。

皆様

2018年版アトピーガイドラインが出ました。特に気になる所について調べてみました。ご一読ください

佐藤健二

2018年11月26日に日本皮膚科学会雑誌12月号が届いた。その中には日本皮膚科学会ガイドラインとして「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」が掲載されている。これは「アトピー性皮膚炎の患者の診療に関わるすべての医師、医療従事者を対象」としている。これの全般的評価は後日に行うとして、当面私の関心のあった点について見てみた。全体を見ていないので見逃して評価が誤っているかもしれない事を断っておく。間違いが分かれば後日訂正したい。

私の関心があったのは次の3点である。1.我々が2016年に発表した6カ月間ステロイドを使わない治療の成績をどう扱ったか、2.脱ステロイド治療がどういう扱いを受けているか、3.ステロイドとプロトピックの治療が有効で安全であるというガイドラインの評価にエビデンスがついたかどうか、である。

1.については次のこのことが分かった。「はじめに」の中に「国内外で発表されたアトピー性皮膚炎に関する新しい知見を加えて作成された」ことと「現時点における日本国内のアトピー性皮膚炎の治療方針における目安や治療の目標など診療の道しるべを示す」事が述べられ、注として「原則として2015年12月末まで」と記されている。我々の論文は2016年に発表されている。だからこの論文を対象として議論することはないことを暗に示している。

ではどの程度原則として2016年以降の論文が省かれているかを調べた。主文が入っている第1章の引用論文は227編である。不明を除いても2016年以降の論文は19編ある。8.4%、約1割である。最も新しいのは2018年の論文である。この事は明らかにガイドライン作成者にとって都合のよい論文を2016年以降から取っていることを示している。すなわち、我々の論文を拡めさせたくないことを意味している。有効で安全であるという薬物治療を勧める医師が、薬物を使わない治療と比較することが怖くて論文を引用することができないのである。なんと情けないことか。

2.「3.3薬物療法」「(1)抗炎症外用薬」「1)ステロイド外用薬」「d)ステロイドに対する不安への対処、不適切治療への対処」の中に次のようの述べられている。「ステロイド外用薬に対する誤解(ステロイド内服薬との混同、およびアトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用薬の副作用との混同が多い)から、ステロイド外用薬への必要以上の恐怖感、忌避が生じ、アドヒアランスの低下によって期待した治療効果が得られない例がしばしばみられる。また不適切な使用により、効果を実感できない事でステロイド外用薬に対する不信感を抱くこともある。その誤解を解くためには十分な診察時間をかけて説明し指導することが必要である。」と。ステロイドが効かないのは患者の治療態度が悪いからという論法である。未だに世界中で困っている多くのステロイド依存性患者の言うことを信頼できない医師の発想である。多くの科の医師がステロイド依存状態から脱ステロイドで回復してきている現実があるのである。同じようにステロイドを使っていても効かなくなってきた、という患者の絞り出すような訴えをもういい加減認めてはどうなのであろうか。

3.「3.3薬物療法」「(1)抗炎症外用薬」に引用文献は一つ示されている。2000年印刷の論文である。そして文章は次のとおりである。「ステロイド外用薬の有効性と安全性は多くの臨床研究で検討されている。」2016年版のガイドラインには次のように出ており、引用文献は無い。「現時点において、アトピー性皮膚炎の炎症を十分に鎮静するための薬剤で、有効性と安全性が科学的に十分に検討されている薬剤は、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏である。」要するに、有効性と安全性は検討中だということである。有効性と安全性がまだ分かっていないものが「標準治療」として大手を振って歩いているのである。恐ろしいことである。2017年に皮膚において皮膚だけでステロイドが作られることが証明された。ステロイド外用を皮膚で行えば、当然ステロイド外用に抑制がかかる可能性が考えられる。この事については何も語られていない。

以上を見てみるとやはり安心のできるガイドラインでないことは明白である。患者に説明・説得することよりも、まずは患者の訴えを真摯に聞くことから始めるべきである。

皮膚の「副腎不全」

2017年11月19日 | Posted by 佐藤 健二 in 医学論文 - (1 Comments)

ヒトでは、表皮細胞において視床下部下垂体副腎系のすべての酵素の存在することが分かっている。尋常性乾癬ではこの働きが少し低下しており、そのことが皮疹発生の一つの原因と考えられる。尋常性乾癬に対してステロイド外用が効果のあることはこの事で説明できるという。
表皮の糖質コルチコイド受容体遺伝子を潰した(ノックアウト)ネズミの副腎を除去し、皮膚に炎症を起こす。皮膚だけを取り出しコルチコステロン(人の場合はコルチゾールに当たる)の産生を調べると大量に産生されることが分かった。皮膚に炎症が起こると、皮膚だけで抗炎症ステロイドを産生することができることを示している。この事は人では皮膚に炎症が起こると皮膚だけでコルチゾールを産生することができることを示唆する。
人においてこの皮膚だけでの視床下部下垂体副腎系の酵素系が外用ステロイドによって抑制されるなら、皮膚だけでの「副腎不全」が起こる可能性がある。長期間ステロイド外用しても全身的な視床下部下垂体副腎系の抑制は起こらないが、外用していた皮膚では激しい炎症が生じる。この現象を日本皮膚科学会のガイドラインでは、長期にステロイドを外用していたアトピー性皮膚炎患者がステロイド外用治療を中止すると生じてくる症状をアトピー性皮膚炎の悪化と考えている。しかし、長期にステロイドを使用した患者が共通して訴えることの一つは、治療しているうちにステロイドが効かなくなる、だから医師は仕方なく強いステロイドを使うよう指示する。もう一つは、ステロイドの外用を中止すると激しい症状が出てくるので止めることができない。この訴えの内容を、皮膚だけでの「副腎不全」から起こってくる症状であると考えると非常に納得しやすい。
アトピー性皮膚炎患者の皮膚でもコルチゾール産生は減っているのでステロイド外用の根拠になるとのことであるが、現に行われている長期にわたるステロイド外用が皮膚での視床下部下垂体副腎系の酵素系の働きにどのような影響を与えるかを検討したうえでステロイド外用の有用性を考えてもらいたいものである。

文献
Hannan R et al. Dysfunctional skin-derived glucocorticoid synthesis is a pathogenic mechanism of psoriasis, J Invest Dermatol 2017; 137: 1630-37.
Slominski AT at al. Cutaneous glucocorticoidogenesis and cortisol signaling are defective in psoriasis, J Invest Dermatol 2017; 137: 1609-11

皆様、アトピー性皮膚炎に対する新しい治療薬が期待されていますが、その一つであるデュピルマブについて検討してみました。ご一読ください。

デュピルマブはIL-4受容体αに対する抗体で、IL-4とIL-13の作用伝達を阻害する。この働きのため、アトピー性皮膚炎の湿疹は16週間後に「消える」と「ほとんど消える」になるのが4割近くにもなり、プラセボの約1割に比べて非常に良くなると宣伝されている。治験対象者は18歳以上の大人のアトピー性皮膚炎患者で、治療が旨く行かず症状が中等症あるいは重症のアトピー性皮膚炎患者である。この4割の人は、観察者の全体的な評価(IGA)で「皮疹が消えた」か「皮疹がほとんど消えた」であり、かつ重症度スコア(0から4まであり)2ポイント以上低下していた、という。
しかし、良く調べてみると、治験に入る前にそれまでの影響をなくすために35日間の無治療期間を設けているのであるが、これから治験を始めるという基準日から、4週間以内に免疫抑制剤や光線治療が必要と考えられる患者と1週間以内に外用ステロイドやプロトピックを使用した患者を除外している。このことはそれまでの治療を中止した後に強い症状の出た患者を除外していることになる。だから、対象患者は中等症と重症患者ではあるが、その中の相対的に軽症患者を選んで治験をしたことになる。私の考え方からすれば「それまでの治療を中止した後に強い症状の出た患者」とは、ステロイドやプロトピックからの離脱症状の重い患者である。今までの経験では、このような患者を除いた患者群は保湿もしない場合は早期に改善することが多い。
デュピルマブの治験中は1日2回保湿をしている。治験の途中で悪化すれば、ステロイドやプロトピック等の外用剤の使用は許可されている。治験終了時の16週時点での使用件数は、デュピルマブ群で2割に達しているが、プラセボ群では約5割である。この違いはデュピルマブ群の効果と言えるのであろう。しかし、4割の患者で良好な成績が出たという主張をもう少し詳しく見ていこう。
自覚症状と皮疹でスコア化するEASIテストでは初めの4週間で50%ほどの改善がみられるが、それを過ぎると急速に改善速度が減少し、12週頃からは70%以上改善せずその状態を維持するように見える。この間にプラセボ群では30~35%程の改善を示し、同じく12週を過ぎると改善傾向が止まるように見える。
シュピルマブ治療の観察者の全体的な評価と我々の成績を比較してみよう。我々の6ヵ月ステロイドを使用しない治療成績で、同じように全体評価をしてみると、最重症(4)、重症(3)から軽症(1)あるいは治癒(0)に変化した比率を計算してみると、13歳以上で6ヶ月後の調査ではあるが、最重症は65人中19人(29%)、重症は24人中4人(17%)となり、合計では89人中23人(26%)となっている。デュピルマブ群では、36~38%がIGAスコアが4、3から1あるいは0に改善している。偽薬群では8~10%が同じ改善を示している。私達が行ったステロイドやプロトピックを全く使用しない治療で最重症と重症の中の重症群を除いていない治療成績が、ステロイドやプロトピックの助けを借りながら最重症と重症の中の重症群を除いたデュピルマブの治療成績に少し劣るだけの成績を示しており、半数の治験者においてステロイドとプロトピックの助けを借りながらの偽薬群の治療成績の3倍弱改善している。我々の行っているステロイドやプロトピックを使用しない治療成績は大変優れていると言える。
デュピルマブの長期使用の効果と安全性については今後の検討が必要な段階です。
デュピルマブは生物学的製剤であり、高額になる見通しである。例えば、尋常性乾癬等に使用される生物学的製剤では薬剤費が月に15万円ほどになる。これと同程度の薬価になると考えられているので、患者負担3割は月に5万円ほどになる。この事から、治療の第一選択薬にはならないようであるが、製薬会社の要望で規制は甘くなるであろう。デュピルマブはほとんど中止できない治療のようであるので、いつまでも使い続ける必要がありそうである。税金から医療費として高いお金を製薬企業に回すのではなく、日本皮膚科学会は安いそして確実なステロイドやプロトピックを使わない治療を拡めていくべきであると考える。