脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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古江論文批判 3
Furue M et al
Clinical dose and adverse effects of topical steroids in daily management of atopic dermatitis
British Journal of Dermatology 2003; 148: 128-133
アトピー性皮膚炎の日々の治療における外用ステロイドの臨床用量と副作用

「調節controlled状態」の欺瞞
1.会社お勧めの皮膚科医のアトピー治療
先日、ある患者が、会社の産業医にアトピー性皮膚炎の治療の相談に伺った。その患者は、ほとんど全身に紅斑のある最重症症例である。産業医は有名な皮膚科医受診を勧めた。その皮膚科医を受診し、「自分はステロイドを中止できるような治療を希望するがどのような治療をしていただけるのか。」と尋ねた。その医師は、「ステロイドを用いた標準治療で行います。」との返事であった。「いつまで外用を続ければ良いのか。」と質問すると、「一生です。」との返事が返ってきた。2009年版日本皮膚科学会のガイドラインには、予後について、「一般に慢性に経過するも適切な治療により症状がコントロールされた状態に維持されると、自然寛解も期待される疾患である。」とある。この正直な皮膚科医は、ガイドラインが控えめに表現している本当の中身を教えてくれたのである。要するに、ステロイドやプロトピックを外用して、「神様まかせ」で自然寛解を「期待」はするが、自然寛解が「起こる」と断言できないのである。標準治療とはそのような治療なのである。

2.Furue論文で重症度変化無しの率
自然寛解が「起こる」と断言できず、コントロールされた状態に維持されればよいと考える原因は、Furue論文の重症度の変化の無い率を見れば理解できる。6か月のステロイド治療で重症度が全て低下したのは、幼児の最重症2例のみで、幼児のその他の重症度や小児例や青年成人例では、全て出発時点と同じ重症度の患者がいる。増悪した症例(幼児7例、小児16例、青年成人12例、合計35例)を除いて、重症度の変化の無い患者の率を計算してみた。幼児では125/204=61%、小児では302/531=57%、青年成人では305/503=61%であり、合計では732/1238=59%である(ちなみに増悪例を含めると62%となる)。59%という数字は、ほぼ5人に3人は良くならないということを意味する。少し臨床経験を積んだ皮膚科医は、半年ほどステロイド治療をして良くならない症例は、おそらくアトピー性皮膚炎以外の疾患でも、6カ月を超して治療しても良くならないと考えるであろう。

3.患者は「調節controlled」状態に満足できるであろうか
上記皮膚科医に代表される医師は、悪くならなければ(重症度が増加しないなら)治療を続けていて意味があると考えている。患者はそれで満足であろうか。患者は、何も治療しない状態で日常生活できることを望む。毎日、朝や朝夕、全身に塗り薬を塗ることの手間や、塗った後のヌルヌル感は、医師が考える以上に耐えたくない事柄である。患者が望む状態にならないことに皮膚科学会は責任を感じるべきであるのに、「良くなるかもしれませんね(=自然寛解も期待される)」と無責任に言い切って平然としていることは、私には理解できないことである。

4.1カ月弱で社会復帰可能状態に
上記患者は、一生塗り続けなければならないとの返事に落胆して阪南中央病院を受診した。ステロイドを含め全ての外用を中止して、平均より早く、ほぼ一ヶ月で痒みと色素沈着は残るものの社会復帰しうるまでの状態に改善してしまった。産業医は、自分の指示と全く逆の治療で良くなってしまったことに驚きを感じると共に、自分の考えの間違いを事実でもって証明されたことへの反発、屈辱感は相当大きいと推察される。

5.65%の人が完治する治療を探すべきである
昔の研究では成人までに84%の人が完治していた。最近では20%の人しか完治せず65%の人は改善状態にとどまっている。改善状態とは、表現は良さそうに感じるが実際は治っていないことである。患者は完治することを願っている。それは何も治療しない状態で生活できることである。「調節controlled状態」で満足することではない。65%の人を完治に持って行くには、控えめな表現をするなら、私が提案している脱ステロイド・脱プロトピック・脱保湿は試してみていい方法であろう。しかし、古江氏が2005年に著した書物の中に記されているような、10倍量のステロイドを塗るという治療法(「古江論文批判 2」を参照)でないのは明瞭であろう。

古江論文の批判2を書きました。今回はステロイド外用量が中心です。表がずれて見にくいかもしれませんがお許しください。第3弾は副作用について書く予定です。
古江論文批判 2
Furue M et al
Clinical dose and adverse effects of topical steroids in daily management of atopic dermatitis
British Journal of Dermatology 2003; 148: 128-133
アトピー性皮膚炎の日々の治療における外用ステロイドの臨床用量と副作用
1.要約の結論はどう解釈すべきか
 要約の中の結論は「外用ステロイドはアトピー性皮膚炎治療のためには有益であるが、かなりの率の患者は外用ステロイドで満足のいく治療ができない。このような患者のためには外用ステロイドの量や強さの調節と追加の治療が必要である。」と述べている。考察の最終には同じ内容について少し詳しく「結論として、外用ステロイドはアトピー性皮膚炎治療のためには有益であるが、外用ステロイドの塗布を増やしてもアトピー性皮膚炎が重症状態にとどまる亜群があるように思える。このような患者に対しては、例えば紫外線照射、治療に関する教育、心理カウンセリングのような他の治療と共に、外用ステロイドの量や強さの調節が必要であるように思われる。」となっている。
 「外用ステロイドの塗布を増やしてもアトピー性皮膚炎が重症状態にとどまる」との評価は重症あるいは最重症の人々と治療後に増悪した人々に対してであると考えられる。このような評価であれば、増やすのは良くない、すなわち外用量について現状維持か減量が考慮の対象となる、と解釈せざるを得ない。では重症者が一体どの程度のステロイド外用量を示していたのであろうか。そして、現在Furue氏はどの程度の外用量をお勧めなのか見てみましょう。
2.ステロイド外用量はどうであったか
 ステロイド外用量の多少を表現するのに、Furue論文は中央値、第75百分位数、第90百分位数で示している。第75百分位数とは、例えば100人の人がいて、外用量の少ない順に並べ、外用量の少ない方から数えて第75番目の人の外用量ということである。中央値はちょうど真中の人の値である。外用量の少ない人の数が相当多く、外用量の多い人の数が相当少ない場合は、このような表現がしばしば用いられる。しかし、外用量の分布をより正確に理解してもらうためには、平均値を付け加えるか、最低値と最高値を示すレンジ(範囲)を示すべきである。Furue論文の場合、アトピー性皮膚炎の罹患期間についてはレンジを記しており、この論文のタイトルに「外用ステロイドの臨床用量」が入っているのであるから平均値や範囲を示さなかったことはそれなりの意図があると考えられる。おそらく外用量が非常に多いと判断される使用量があったのであろう。そして、それを隠したかったのであろう。しかし、重症例や最重症例および増悪例と外用量最多10%の患者との関係は重要な観点であるから、明らかにされるべきであった。なぜなら、第91番目から100番目までの人の外用量が現在の10倍量であっても90番目の人の外用量は論文中の報告量であるからである。
 さて、外用量であるが、ステロイド外用剤の種類を度外視して、6ヶ月間の外用合計量(体全体に塗った量)の中央値、第75百分位数、第90百分位数は、幼児では25g、42.8g、89.5gであり、小児では45g、80g、135gであり、青年成人では95g、180g、304gである。この値の増加は指数関数的であり図を書いて最高値を推定すると、幼児では150g、小児では190g、青年成人では400gとなる。Furue氏は「調節」症例と「調節不良」症例に分けて中央値、第75百分位数、第90百分位数を示している。この値から最多使用量を推定すると、「調節」症例と「調節不良」症例のそれぞれの値は、幼児で100g、120gであり、小児で170g、300gであり、青年成人では350g、500gとなる。
 この最多外用量が500gであることは、古江氏が自著「ステロイド外用薬アラカルト、−実践への道−」(古江増隆著、株式会社ミット、2005年)に記述されている厚生労働省研究班による重症度の目安と外用量の適量を示した表(40−41頁)との関連で大変重要な意味を持ってくるが、これは後で(7.重症アトピーにステロイドを減らせと言っているか?)述べる。
3.外用量とステロイド強度と患者状態との関連についての評価
 Furue氏は結果の項目で次のように述べている。「外用ステロイドの使用合計量は、調節群より調節不良群で実際に多かった。その統計学的差は小児群より青年成人群でより明瞭であった。興味あることには、幼児群と小児群の調節不良患者はマイルド(中等)とウィーク(弱)ランクのステロイドを有意に多く使用していた。青年成人群では調節不良群は調節群に比べて有意に多量のストロンゲスト(最強Ⅰ)・ベリーストロング(上強Ⅱ)・ストロング(強Ⅲ)ランクのステロイドを使用しているようである。」と。
 問題は「幼児群と小児群の調節不良患者はマイルド(中等Ⅳ)とウィーク(弱Ⅴ)ランクのステロイドを有意に多く使用していた。」の記述である。統計学的に有意差があったからこのことを強調して記述したのであろうが、このことを強調する必要はない。外用合計量が幼児では多い傾向があり、小児では有意に多い状況で幼児と小児でより弱いステロイドの外用量が多かっただけであるからである。実際は次のことを述べなければならなかった。[全身への外用合計量については、幼児では調節群と調節不良群に統計学的有意差はないが調節不良群が多くのステロイドを外用している傾向があり、小児と青年成人では有意に調節不良群で外用ステロイド量が多くなっている。より強いステロイドの使用量とより弱いステロイドの使用量に分け調節群と調節不良群との間で比べてみると、次のようになる。より強いステロイドの使用量を見ると、幼児と小児では調節群と調節不良群との間で統計学的有意差はなかったが、小児群ではすでに調節不良群に多い傾向があった。青年成人群では調節不良群でより強いステロイドの使用量が有意に多かった。また、より強いステロイドの使用量とより弱いステロイドの使用量の年齢別の相対量を見ると、幼児、小児、青年成人と年齢が高くなるにつれて、より強いステロイドの使用量が増える傾向が明瞭であり、青年成人ではより弱いステロイドの使用量は使用合計量のごく一部でしかなかった]、と。
 ではなぜ、「幼児群と小児群の調節不良患者はマイルド(中等)とウィーク(弱)ランクのステロイドを有意に多く使用していた。」の文章を入れたがであるが、「調節不良群でより弱いステロイドを多く使用していた」という点だけを取り上げて理解すると、あたかも[
[弱いステロイドを多く使っていたから調節不良になったのだ、より強いステロイドを多く使っていれば調節できていたかもしれない]と思わせる文章であるからである。統計表をじっくり見てみると事実はこのような理解をすべきでないことが分かる。原因であるか結果であるかは別にして、調節不良群でより多くのステロイドが使用されているのである。
 ここで要約の結論の考え方について再度記しますと、「外用ステロイドの塗布を増やしてもアトピー性皮膚炎が重症状態にとどまる」との評価であれば、増やしても意味がない、すなわち外用量について現状維持か減量が考慮の対象となる、であろう。重症例の場合は少なくともステロイド外用量の維持あるいは減量すべき対象がいるわけで、これは調節不良群、だから、より多くのステロイドを外用している患者が外用量を減らす必要があるということを意味しているのである。
4.6か月の治療で中等症以上である率
 Furue論文では、6ヶ月間のステロイド治療後に最重症と重症である症例と研究開始時点より増悪した症例が「調節不良uncontrolled」例に分類され、6ヶ月間のステロイド治療後に中等症と軽症である症例は「調節controlled」例に分類されている。中等症と軽症の定義を示すと、中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%未満にみられる(炎症皮膚病変が体表面積の10%未満の時)、軽症:面積に関わらず、軽度の皮疹のみみられる(乾燥皮膚、落屑、かすかな紅斑のような、ほとんどが軽度の皮膚病変)、である。熱傷の受傷範囲でしばしば用いられる「9の法則」で判断すれば、頭部全体と同じ程度の皮疹のある場合が中等症の中の最重症症例ということになる。従って、アトピー性皮膚炎でしばしばみられる苔癬化局面のある部位、肘窩、膝窩、手関節、顔面の一部に皮疹のある場合が中等症程度ということになる。
 この程度の皮疹からさらに改善すれば軽症になると思われるが、6か月のステロイド治療で中等症までに留まっている率がどの程度であるかを計算してみた。2歳未満では33%(67/206)、2歳以上13歳未満では65%(343/531)、13歳以上では64%(324/503)である。これでは6カ月のステロイド治療によって好発部位の皮疹は全くよくなっていないことになるのではないのか。そして、「幼児の7%、小児の10%、青年成人の19%は、より多くの外用ステロイドを塗布したにもかかわらず、最重症か重症状態にとどまったか増悪を経験した」のである。
 考察の中に次の文言がある。「多くの患者はこの研究が始まる前にステロイドを使用していたことと、教育、激励、その他の色々な治療をしてきていたことが強調されなければならない。だから、改善上の変化をステロイドだけに帰すことは非常に難しい」。67+343+324/206+531+503=734/1240=59.2%が典型的皮疹にとどまっていて、さらにこのような評価をするならば、なぜ結論の「外用ステロイドはアトピー性皮膚炎治療のためには有益である」と言えるのであろうか。
 「調節不良uncontrolled」群が全体で13%(164/1240)存在する。6カ月ステロイド治療してこの状態であることは、ステロイド治療がどういう意味を持つのかが問われる必要があるだろう。不思議なことに、この調節不良群のステロイド外用量は記述されていない。ステロイドを使っての治療で、よくならない症例がどの程度ステロイドを使っていたかは、群としての多い少ないと共に、個々の患者でどの程度使用していたかを記述するのは一般臨床家にとって非常に重要な参考資料となるであろうに、その値を示してはいないのである。隠したかったのであろう。
5.ステロイドで上手く調節されているか
 考察の項目中で「これまでの治療で大部分の患者は上手く調節されている(下線は佐藤による);しかし、幼児の7%、小児の10%、青年成人の19%は6カ月の治療後に最重症あるいは重症にとどまっている、あるいは増悪を経験している。外用ステロイドの総量はウイルソン等やムンロとクリフトによって報告された量よりはるかに少ない」と、言っている。結果の項では、「調節されている」という表現であったが、考察になって突然「上手く調節されている」に変わっている。根拠は、おそらく外国人の報告にあるステロイド外用量に比べてFurue氏らの研究では外用量がはるかに少ないということなのであろう。この二つの論文は1973年印刷の論文である。この頃、論文を書き始めて印刷になるまでには1年ほどかかると考えれば、まだⅢ群(強)以下のステロイドで治療されている時期の報告である(添付資料「日本で有名なステロイド外用剤の発売開始年月とステロイドの強さ」参照)。30年後に書かれているFurue論文では強力なステロイドが広範に使用されている。特に青年成人患者に対するステロイドでは、ⅣとⅤのステロイドはほとんど使用されていない。このように30年近くも離れた治療状況の違いを無視して、外用量の比較をすることは適切であるとは言えない。30年前では効果の弱いステロイドが量的に多く使われていて当然である。だから、上記二つの論文を根拠に上手く調節されているというのは言い過ぎである。従って、「調節されている」を「上手く調節されている」に変えることはやってはいけないことであろう。
 青年成人患者の調節不良群は調節群よりより強いステロイドを多く使っていると述べた後で、「成人のアトピー性皮膚炎の再発皮疹は、局所治療に抵抗すると報告されているので、青年成人群では外用ステロイドに抗炎症効果に対してより反応しないのかもしれない。」と言っている。高年齢患者により強いステロイドを多量に外用していたことの言い訳を得たいがためにこの報告を引用したのである。しかし、この報告は1936年のものであり、ステロイド外用剤の全くない時代の外用剤への反応を示している。強力なステロイド外用をしても治らなくなった皮疹と全くステロイドを塗ったことのない皮疹の治りにくさを比較することには無理がある。成人重症アトピー患者が脱ステロイドをすると良くなっていくという情報が頭にあり、この情報を少しも入れないで自分の考えを無理やりとおすためには、比較すべきでない情報を比較するという無理をしているのである。ステロイドによって毛細血管拡張や皮膚萎縮のあるような皮疹とステロイドの副作用のない皮疹を同じように考えることは科学者のすることではないように思われる。勿論Furue氏はこのようなことは分かっているが黙して語らない。
6.阪南中央病院入院患者の治療成績
 私の病院に入院される患者さんは、①ステロイドを使いながら、②保湿剤のみを使いながら、③ステロイドを止めた後悪化した状態で、④保湿剤を止めた後で悪化した状態で、⑤ステロイドも保湿も止めた後で悪化した状態で、入院される。この患者さんの約半分は紅斑部分が全身の皮膚の90-95%を超える紅皮症状態である。この人々のほとんどが、嘘だと思われるが2−3カ月で中等症程度に改善する。その方法がいわゆる「脱ステロイド・脱保湿」である。すなわち、ステロイドを中止し、保湿も中止する。その他にすることは水分制限、止痒剤内服、入浴の調節、ガーゼ保護等のスキンケア、ある程度下肢に痛みがなくなれば散歩などの運動(理学療法)である。その一部は好発部位の皮疹も消失するのである。少なくとも重症例についての改善率は明らかに脱ステロイド脱保湿が優れている。この比較についてのいくつかの留保条件を述べておくと、一つは皮疹の評価の基準がFurue論文には詳しく書かれていないので同じ重症度評価をしているかどうかが決められないことである(勿論、皮膚科学会の重症度分類に則ったものであろうが、双方が同じ基準を作ることはなかなか難しい)。もう一つは、Furue論文に出ている患者の皮疹はステロイドを外用している皮疹であるが、私の患者の皮疹はステロイドも保湿もしていない皮疹であることで、同じ重症度の評価でも同じ性格の皮膚であるとは言えないことである。
7.重症アトピーにステロイドを減らせと言っているか?
 古江氏は、2005年に株式会社ミットから、「ステロイド外用薬アラカルト、—実践への道—」と題する本を出版した。その「Ⅴ.ステロイド外用薬の使用法、Q28 塗布量の目安について」(40-41頁)の中に「全身にくまなく外用すると成人では25gが必要です。幼少児ではおよそ15g、乳児ではおよそ10gが必要です」と、述べている。そして、「厚生労働省研究班による重症度のめやすと外用量の適量」を表に示しています。その表は「1回の外用量はどの程度が適量か?」と題して、軽症はごく少量、中等症(体表面積の10%未満に皮疹)には5gチューブで1/2本以内、重症(皮疹面積10-30%)には3/2本以内、最重症(皮疹面積30%以上)には全身に塗るには4-5本必要と記してある。アトピー性皮膚炎患者が6ヶ月間(180日)、毎日あるいは隔日にステロイドを塗るとすると一体何グラムになるか計算しよう。6カ月はFurue論文での治療期間である。
皮疹面積1日量g 6カ月隔日g 6カ月毎日g
成人 幼少児 乳児
10% 1/2 x 5 = 2.5 225 450 270 180
30% 3/2 x 5 = 7.5 675 1350 810 540
全身 3/2÷3/10 = 25 2250 4500 2700 1800
これが現在のお勧めの外用量である。この批判文の「2.ステロイド外用量はどうであったか」には、青年成人の調節不良群の最多外用量は500gと推定している。おそらくほぼ全身に皮疹のある症例であったであろう人に500gを外用していたのである。そして、「外用ステロイドの塗布を増やしてもアトピー性皮膚炎が重症状態にとどまる」症例があると言っているにもかかわらず、約9倍の4500g外用することを勧めますと臆面もなく表明することができるのである。ここまで来ると、Furue氏の誠実さを疑いたくなっても多くの人は良しとされるであろう。製薬会社は満足でありましょう、このような研究者が大学におられて。

日本で有名なステロイド外用剤の発売開始年月とステロイドの強さ
(ⅠからⅤは本文中を参照のこと)
発売開始 ステロイド 強さ
1950-1960年代
1958.5 プレドニン眼軟膏 (眼)
1960.5 オイラックスH Ⅴ
1961.7 ネオメドロールEE (眼・耳)
1961.8 レダコートクリーム Ⅳ
1961.9 フルコートクリーム Ⅲ
1962.2 エキザルベ Ⅴ
1963.1 レダコート軟膏 Ⅳ
1965.12 ベトネベート Ⅲ
1966.1 リンデロンA軟膏 (眼・耳)
1966.3 リンデロンV Ⅲ
1967.1 フルコート軟膏 Ⅲ
1967.9 プレドニゾロン Ⅴ
1968.2 グリメサゾン Ⅳ
1970年代
1970.7 リンデロンVG Ⅲ
1972.6 プロパデルム Ⅲ
1972.12 デキサメサゾン Ⅳ
1973.4 ドレニゾンテープ Ⅲ
1975.10 トプシム Ⅱ
1975.10 ロコイド Ⅳ
1979.4 デルモベート Ⅰ
1980年代
1980.12 ネリゾナ Ⅱ
1982.2 ビスダーム Ⅱ
1982.8 リドメックス Ⅳ
1983.2 パンデル Ⅱ
1984.3 キンダベート Ⅳ
1985.9 ジフラール Ⅰ
1986.1 トクダーム Ⅲ
1986.6 ザルックス Ⅲ
1986.6 ボアラ Ⅲ
1986.7 マイザー Ⅱ
1987.1 メサデルム Ⅲ
1987.10 リドメックスL Ⅳ
1987.11 リンデロンDP Ⅱ
1988.5 アルメタ Ⅳ
1990年代
1993.11 フルメタ Ⅱ
1993.11 アンテベート Ⅱ
1997.3 エクラー Ⅲ
1999.3 テクスメテン Ⅱ
備考
1.軟膏、クリームを区別していないのは同時承認あるいはどちらかしか製剤がない場合
2.1960年代は軟膏とクリームは別々に承認。以後は殆ど同時承認
3.1970年代前半までは強さのランクがⅢからⅤ
4.1975年以降にⅡとⅠが出る。しかし、弱いⅣも時々出る。1975-79は1種、1980年以降は3種
5.2000年以降は新しく開発されなくなった。ジェネリックの出現と市場占有率の上昇が見込めなくなったから。
6.眼科用ステロイドが皮膚用のⅢランク以上のものを作らなかったことが明瞭。動物実験で目に大変な副作用が出たに違いないと思われる。たとえば、角膜潰瘍、角膜消失、白内障、緑内障など
7.ステロイドの強さのランク付けは、Ⅰ:ストロンゲスト(最強)、Ⅱ:ベリーストロング(上強)、Ⅲ:ストロング(強)、Ⅳ:マイルド(中等)、Ⅴ:ウィーク(弱)

 この論文は、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(日本皮膚科学会雑誌2009;119:1515-1534)の最高責任者が書いた論文です。ガイドラインは「現時点において、アトピー性皮膚炎を十分に鎮静しうる薬剤で、その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤は、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏である。」と謳っています。その程度がどれほどかご検討ください。まさか、自分の論文は証明できていませんとは言っていないと期待いたします。
 何回かに分けてその論文の概略を報告します。
Furue M et al
Clinical dose and adverse effects of topical steroids in daily management of atopic dermatitis
British Journal of Dermatology 2003; 148: 128-133
アトピー性皮膚炎の日々の治療における外用ステロイドの臨床用量と副作用
要旨
背景:外用ステロイドはアトピー性皮膚炎に対する最重要治療として用いられている。
目的:診療所におけるアトピー性皮膚炎に対する日々の治療のための外用ステロイドの臨床用量を決めることとその副作用を明らかにすることである。
患者と方法:1271人の一連のアトピー性皮膚炎患者(幼児210人、小児546人、青年成人515人)の多施設後向き分析。
結果:6か月の治療期間中に、幼児、小児、青年成人アトピー性皮膚炎各患者グループの90%において、それぞれ89.5g、135g、304g以下の外用ステロイドが全身に塗布された。大部分の患者は旨くコントロールされた;しかし、幼児の7%、小児の10%、青年成人の19%は、より多くの外用ステロイドを塗布したにもかかわらず、最重症か重症状態にとどまったか増悪を経験した。副作用について、頬の毛細血管拡張の発生率は、より長期の罹病期間を持ちかつ6カ月の治療期間中に顔面に20g以上を塗布した患者では増加する傾向があった。肘窩膝窩のステロイドにより作られた皮膚萎縮は、女性より男性により高頻度に観察された。
結論:外用ステロイドはアトピー性皮膚炎治療のためには有益であるが、かなりの率の患者は外用ステロイドで満足のいく治療ができない。このような患者のためには外用ステロイドの量や強さの調節と追加の治療が必要である。
はじめに
 この論文の目的は、アトピー性皮膚炎(AD)患者が多くなっており、外用ステロイド、保湿剤、抗ヒスタミン剤がADの最重要の治療薬として使われているが、外用ステロイド長期使用への恐怖が世界中の多くの患者でステロイド恐怖症を生んでいる。しかし、外来で治療されているAD患者への外用ステロイドの量と副作用についての情報はほとんどない。この点について明らかにすることがこの研究の目的
研究方法
 この論文は、福岡県の日本臨床皮膚科学会に属する皮膚科医(主として開業皮膚科医から構成)77名に診察されている外来患者についてのデータである。1999年に実施。
 少なくとも6ヶ月間の経過を観察した。調査項目は、年齢、性、罹病期間、治療前の全体的な重症度、6ヶ月間の伝統的な外用ステロイド治療後の全体的な重症度、臨床的改善の評価、顔面・被髪頭部・体幹・四肢への6ヶ月間に使用した各ランクのステロイドの合計量、単純ヘルペスやカポジ水痘様発疹症の合併、伝染性軟属腫の合併、副作用(頬の毛細血管拡張、肘窩膝窩の皮膚萎縮、痤瘡と毛嚢炎、多毛、細菌感染、皮膚真菌症、酒皶様皮膚炎、外用ステロイドによる接触皮膚炎、ステロイドによる萎縮線条)である。
 全体的な臨床重症度は「最重症(最)」、「重症(重)」、「中等症(中)」、「軽症(軽)」に分けた。それぞれの定義は以下の通り。(本来言いたいことを記した。括弧内は英語を直訳したもの)。
最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上にみられる(炎症皮膚病変が体表面積の30%を超えている時)
重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満にみられる(炎症皮膚病変が10%を超えて30%未満まで見られる時)
中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%未満にみられる(炎症皮膚病変が体表面積の10%未満の時)
軽症:面積に関わらず、軽度の皮疹のみみられる(乾燥皮膚、落屑、かすかな紅斑のような、ほとんどが軽度の皮膚病変)
 臨床的改善は、6ヶ月間の患者の全体的な臨床経過を評価する医師によって、「治癒あるいは著明改善」、「改善」、「軽度改善」、「不変」、「増悪」と評価された。外用ステロイドの強度は「ストロンゲスト」、「ベリーストロング」、「ストロング」、「マイルド」、「ウィーク」に分けられた。
結果(検討内容によって数値が少し変化するが、記入の無いものなどもありしかたがない)
 登録された症例
 幼児   0≦ <2歳 210名(男124、女74)
      平均±標準偏差 1.1±0.5歳 (ピークは1.1歳より少し低い)
 小児   2≦ <13歳 546名(男268、女250)
      平均±標準偏差 5.6±3.3歳 (ピークは5.6歳より少し低い)
 青年成人 13歳≦    515名(男279、女201)
      平均±標準偏差 24.6±10歳 (ピークは24歳より低年齢)
 治療効果(表1にはステロイド6カ月治療の前と後の臨床的重症度の変化を示している。評価の記入の無いものを除いて、表1を分かり易く書き変えた。幼児グループ、小児グループ、青年成人グループ別に記す。各グループは縦に見てください。左に、治療前の重症度と人数、右に、変化した重症度ごとに重症度・人数・その%を記す。表がずれています。正しくは http://8617.teacup.com/atopy/bbs の12月13日の同名の題の表をご覧ください)
幼児           小児          青年成人
 前   後        前   後       前   後
 最2  最        最14  最3(21)   最30  最15(50)
     重            重5(36)        重6(20)
     中2(100)        中5(36)        中7(23)
     軽            軽1(7)        軽2(7)
 前   後        前   後        前   後
     最            最2(2)         最2(1)
 重23  重8(35)    重90  重27(30)    重146 重65(45)
     中9(39)         中44(49)        中58(40)
     軽6(26)         軽17(19)        軽21(14)
 前   後        前   後        前   後
     最            最            最
     重            重3(1)         重6(2)
 中98  中41(42)   中299  中155(52)    中259 中161(62)
     軽57(58)        軽141(47)        軽92(36)
 前   後        前   後        前   後
     最            最            最
     重1(1)         重            重
     中6(7)         中11(9)        中4(6)
 軽83  軽76(92)    軽128  軽117(91)   軽68  軽64(94)
 臨床的重症度についての著者の評価を記します。
 最重症と重症のアトピー性皮膚炎の頻度は青年成人アトピー性皮膚炎(AD)グループの方が他のグループより優位に高い。大部分の患者では、6か月の伝統的な治療の後でADの臨床的重症度は改善か変化なしである(コントロールされたグループ)(有意差あり、p<0.001)。しかし、幼児ADの7%(206人中15人)、小児ADの10%(531人中51人)、青年成人AD患者の19%(503人中98人)は最重症か重症状態あるいは増悪を経験していた(コントロールできていないグループ)。
 (この結果のまとめについていくつかの疑問がわきます。それを列挙します。
1.治癒患者無しということ
   臨床的改善の評価基準に「治癒」が含まれているが、この調査のいずれの症例においても治癒が無かったことである。昔の研究では2歳までにある程度が、成人までに84%が治癒していたにもかかわらず。最近の研究でも20%は治癒するのである。このことはこの治療法の有効性について強い疑いを持つものである。
2.コントロールされているという評価の恣意性
   コントロールされているグループの中には、6か月のステロイド治療前と治療後で重症度に変化がないunchanged症例がコントルールされているという評価になっているcontrolled group。一方で、コントロールされていないグループの中にもuncontrolled group治療前と治療後で重症度に変化のない症例が、小児で、最重症は14人に3人、重症は90人中27人、青年成人で、最重症は30人中15人、重症は146人中65人の人がいる。中等症で変化がなければコントロールされており、重症者や最重症者では変化がなければコントロールされていないという評価になっている。このように異なる評価をする理由は何であろうか、何も説明されていない。治療に対する変化がコントロールされているか否である。ある時期の病状の重い軽いではない。
3.幼児・小児のグループ別に評価すれば、軽症であった症例の増悪例が多い
   軽症の幼児グループでは3例中76例で改善が無く、1例で重症に、6例で中等症に増悪している。小児グループでは、128例中117例で改善が無く、11例で中等症に増悪している。幼児と小児の軽症患者を合わせれば、211人中18人が悪化しており、統計学的には有意差が無いかもしれないが、等閑に付すことのできない問題と考える。
4.青年成人での重症度の増加
   なぜ青年成人でこのように悪化がひどくなるのであろうか。
 比較のために佐藤小児科で行われたステロイドを使わない治療の治癒率を載せておく。佐藤小児科での調査は顔面の湿疹だけの経過を追っているが、調査対象が1歳未満の子供であるため、顔面の皮疹が中心であることを考えると、絶対比較してはならない違いであるとは思えない。なお、ステロイドを使用していてもいなくても、受診後はステロイドを使わない治療をしての結果である。
 441人を対象とした(ステロイド使用者129名、ステロイド不使用者312名)。治癒症例は389名(88%)、治らずに治療を中断した者は52名(ステロイド使用者31名、ステロイド不使用者21名)であった。ステロイド使用者の中で治癒症例は98名(76%)、平均6.4カ月必要であった。ステロイド不使用者の中で治癒症例は291名(93%)、平均4.8カ月必要であった。なお、ステロイド使用者で治療中断までの平均期間は2.5カ月であり、ステロイド不使用者では3.3カ月であった。ステロイドを使っていてもいなくてもステロイドを使用せずに皮疹が消えるまでに5-6カ月しかかからず、治癒率が76-93%とステロイドを6カ月使って治癒が全くないとでは大変な違いであることは明瞭でありましょう。)

アトピー性皮膚炎から見た現行「食物アレルギー」論批判
阪南中央病院 皮膚科 佐藤健二
 厚生労働科学研究班(主任研究者:海老澤 元宏氏)による「食物アレルギーの診療の手引き2008」(http://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/05/05.pdf)の批判を中心として記述。
1.検討委員会メンバーから起こる問題点
 横浜市立大学医学部皮膚科教授 池澤 善郎氏は、アトピー性皮膚炎はIgEアレルギーで起こっていると考えているまじめな医師であるが、間違った考えの持ち主である。
 九州大学医学部皮膚科教授 古江 増隆氏は、この診療の手引きを作成後、ある会で「IgEアレルギーの症状として湿疹を入れることに抵抗したが、妥協の産物として入れざるを得なかった」旨の発言をしており、アレルギーであるかどうかの判断基準とアレルギー症状の発現率についてこの手引きが正確さを持ち合わせていないことを示す重要な発言をしている。学問内容では妥協はすべきでなかった。
2.アレルギー総論の間違い
 食物アレルギー総論で食物アレルギーの定義を「原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状(皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、アナフィラキシーなど)が惹起される現象」とし、食中毒、毒性食物による反応、食物不耐症(仮性アレルゲン、酵素異常症など)は含まないとしている。
#臨床型分類
 新生児消化器症状、食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎、即時型症状(じんましん、アナフィラキシーなど)、そして特殊型として食物依存性運動誘発アナフィラキシーと口腔アレルギー症候群が挙げられている。
 「新生児消化器症状」の起こる機序として「主にIgE非依存型」とある。では何アレルギーなのか。どのような免疫学的機序なのかはその後何処を見ても記述がない。
 「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」(発症年齢は乳児期)の発生機序は「主にIgE依存型」とある。そして注に「慢性の下痢などの消化器症状、低蛋白血症を合併する例もある。全ての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではない」と追加されている。この注の「全ての———が関与しているわけではない」の表現は厳密には0%<関与率<100%であろうが、日本語のニュアンスとすれば「ほとんど」あるいは「かなりの率の」乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与していると受け取られるのが普通である。となると、この表からは「乳児期のアトピー性皮膚炎のほとんどは食物アレルギーが関与している」と受け取られる。これでは一般の医師は、アレルギー原因物質の除去に必死になるのは当然であり、患者も必死になって除去食を食べるようにならざるをえない。臨床の場での患者の困惑状況を考えると、古江氏はけっして妥協すべきではなかった。食物アレルギーは即時型症状であり、即時型反応は症状が強いため直ぐに何が原因か分かって食べなくなるため、アトピー性皮膚炎が食物アレルギーで悪化することはほとんどない。だから、食物アレルギーはアトピー性皮膚炎に関与しないのである。関与していると考える間違いは症状に湿疹を入れたことから発生する。食物とアトピー性皮膚炎の悪化が関係しているという間違った関連を多く作りだしているし、湿疹が食物アレルギーと思わせる間違いを起こしている。
 臨床型分類から「新生児消化器症状」の項と「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」の項と後者に関連する注は削除されなければならない。
#食物アレルギーにより引き起こされる症状
 皮膚粘膜症状の中に「瘙痒感、じんましん、血管運動性浮腫、発赤、湿疹」とある。IgE依存型の皮疹であるならば「瘙痒感、じんましん、血管運動性浮腫、発赤」は正しい。しかし、「湿疹」は間違いである。問題の臨床的重要性から判断すれば「瘙痒感」「発赤」は省くべきで「じんましん、血管運動性浮腫」だけにすべきである。少なくとも「湿疹」削除されなければならない。
#食物アレルギーの疫学
 ここでの有病率は「湿疹」の患者を除外して計算する必要がある。もし除外するならば、有病率はワンオーダー(1/10)からツーオーダー(1/100)ほど下がる可能性がある。
#その他の重要事項
 この中の第1項目目の記述は、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインの間違いに起因する重要な間違いである。次のように記されている。「乳児の食物アレルギーの多くはアトピー性皮膚炎を合併している。アトピー性皮膚炎治療ガイドラインに即したスキンケアや薬物療法を先に行っても症状が改善しない場合に食物アレルギーの関与の有無を検討する。」
 ガイドラインに即した治療で症状が改善しない原因のほとんどは、ステロイド外用による副作用であるステロイド依存性皮膚症である。ステロイド依存性皮膚症の治療を先に行うべきであるのに食物アレルギーを探すのは全くの間違いである。正しく解釈された食物アレルギーはごく稀である。
 従って、この項目は削除されなければならない。
3.食物アレルギーの診断
 2.で述べた理由から「一般血液検査」の「1)食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎の経過中に末梢血好酸球数の増加、鉄欠乏性貧血、肝機能障害、低蛋白血症、電解質異常がみられることがあるので必要に応じて一般検査を行う。」は削除すべきである。これらの症状は食事アレルギー説によるアトピー性皮膚炎の治療上の誤りから、また、食事摂取方法の間違いからくることがほとんどである。ステロイドを使わない正しいアトピー性皮膚炎の治療と食事指導が必要である。
 「血中抗原特異的IgE抗体検査」の「1)血中抗原特異的IgE抗体陽性(=監査されていることを示す検査所見)と食物アレルギー症状が出現することとは必ずしも一致しないことを念頭に置くべきである」は「1)血中抗原特異的IgE抗体陽性(=監査されていることを示す検査所見)と食物アレルギー症状とは相関しないので、確実な即時型反応が臨床的に確認できる場合を除いてこの検査はすべきでない。」と変えられなければならない。また、確実な事が言えないのであるから、3)と4)及びプロバビリティカーブについても削除しなければならない。
 「皮膚テスト」についても食物アレルギーと皮膚テストとは相関しないため実施する必要はない。「4)皮内テストはショックの危険性や偽陽性率が高く、診断のためには通常行わない。」のみを残すべきである。
 「ヒスタミン遊離試験」の項目は不必要であり、削除する。
 「食物除去試験」は即時型反応を示す食物が臨床的に確実な場合は不必要であるし、不確実な場合は混乱するだけであり行うべきではない。
 「食物負荷試験」については、「2)食物負荷試験は、原因抗原診断のためと耐性獲得の判断のための2通りの目的で行う。」とあるが、次に述べる項目の理由で「原因抗原診断のためと」と「のための2通り」を削除し「2)食物負荷試験は、耐性獲得の判断の目的で行う。」にすべきである。「負荷試験の適応とすべきでない症例」の説明中、「血中抗原特異的IgE抗体高値で」は削除すべきで「直近のアナフィラキシー症例や明らかなエピソードのある例」とすべきである。抗体低値でも激しい反応の出る症例はあるからである。「3)負荷試験の種類」で普通にできる①オープン法と②シングルブラインド法は「出現症状が主観症状だけであった場合は、判断が確定的でない」と言わざるを得ないような不確かなものである。判断基準を蕁麻疹とアナフィラキシーのみに絞って行わないからこういう結果になるのである。乳児が離乳食や粉ミルクを始める場合は、蕁麻疹やアナフィラキシーが出るかどうかだけを判断基準として一品一品食物を増やしていけばいい。これが実際の負荷試験である。この場合に即時型反応が出る確率は極めて低いので親は心配しないことである。
4.食物アレルギー診断のフローチャート(食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎)
 既に述べた理由から、根本的に書き変える必要がある。細かく記述する値打はない。
5.食物アレルギー診断のフローチャート(即時型症状)
 「明らかに重篤なアナフィラキシーが疑われる」が「はい」以降はその通りで良い。しかし、「明らかに重篤なアナフィラキシーが疑われる」が「いいえ」の場合はに検査をすることは論理矛盾である。疑っていないのになぜ検査をする必要があるか。問診のやり直しが必要なだけである。改定が必要である。
6.食物アレルギーの治療・予防
 このテーマには問題なしである。このなかで、「ハイリスク児に対する一次予防」のなかで、「妊娠中・授乳中にアレルギー性疾患発症予防のために食物制限を行うことは十分な根拠がないために通常進められていない。」との記述は重要である。なお、「一次予防」とは「食物抗原に対するIgE抗体が作られることを予防すること」である。
7.アナフィラキシーへの対応、8.食物アレルギーと栄養、9.食物アレルギーの社会的対応、10.参考資料1-3は問題なしである。
この手引きには仮性アレルゲンについての十分な配慮がされていない懸念があるので以下に参考のために付しておく。
{仮性アレルゲン・アレルギー誘発食品

http://www.hajime-net.jp/Dr-Kakuta/allergy_seikatu/04/kasei-allerugen.html

 食物に天然に含まれる化学物質、環境汚染によって蓄積・残留してしまった化学物質などのために、通常のアレルギー反応の経路を通らずに、アレルギー症状が起こったり、もともとあったアレルギー症状を悪化させてしまうことがあります。その食物に対するアレルギー反応ではありません。
 アレルギー体質が強く、アレルギー反応が過剰に起こりやすい体質がある場合には、状況が変わってきます。アレルギー体質があっても、体調がいい時は注意しながら食べることは可能な場合もあります。しかし、体調の悪い時やアレルギー症状を起こしている時、年齢が小さな子どもでは、アレルギー症状を増強させてしまう可能性があります。敏感な人では少しでも激しい症状を起こすことがあります。体調不良時やアレルギー症状がある時は多量摂取を避ける必要があります。
 特に、ソバ、ヤマイモ、キウイ、チョコレート、チーズ、ピーナッツ、タケノコ、ナス、トマト、メロンはアレルギーを悪化させる頻度が高いので注意が必要です。野菜や果物に含まれる化学物質は、熱を加えて調理すると反応や症状が軽くなる場合があります。また、これらは生の状態では食品そのもののアレルギーも起こしやすい食品です。}

 イギリス皮膚科雑誌の7月号に下記の論文が出たとm3.comメール(医療ニュース)に出ていました。参考になるのでお知らせいたします。
# 佐藤の補足説明
 「トビヒ」など皮膚の細菌感染症が起こっている場合には抗生物質は皮膚に対して有効ですが、細菌感染していないアトピー性皮膚炎の症状を抗生物質で改善できるかどうかを見ると、その場合は皮膚の症状は改善しないということです。アトピー性皮膚炎の患者の皮膚の表面に黄色ブドウ球菌がよくついていますが、この黄色ブドウ球菌を減らす治療をしても意味はない、アトピーは改善しないということを意味します。だから、アトピー治療として、イソジンで消毒、超酸性水で皮膚のばい菌を減らすなどの治療は無意味だということです。
 この論文の中にある(以下にあった数行は、深谷元継先生のご指摘により以下の数行のように改訂させていただきました)「平均への回帰」について知らなかったので、日本語のウィキペディアを見てみました。「平均への回帰」は、一回目の実験で大きな違いが出たケースだけを取り出して二回目の実験を行っても以降は一回目ほどの差が出ない傾向がある、というような意味のように思いました。背の高い父親たちの子供たちの身長は平均値に近くなるということが平均への回帰の説明に出ています。
# 論文の要約
アトピー性皮膚炎に対する抗黄色ブドウ球菌剤投与の有用性の検討
Bath-Hextall FJ, Birnie AJ, Ravenscroft JC, Williams HC.
British Journal of Dermatology. 2010 Jul;163(1):12-26
黄色ブドウ球菌とアトピー性皮膚炎における湿疹病変との関連は長年にわたり認識されてきた。明らかに感染を合併した皮膚炎を有する患者に対して抗生物質を利用することの利点は広く認められているが、黄色ブドウ球菌が非感染性湿疹病変に対してどのような影響を及ぼすかについては明確ではない。
 イギリスの研究グループは、抗黄色ブドウ球菌薬がアトピー性皮膚炎の治療に効果的であるかどうかを検討するために、無作為対照化試験(RCTs)の系統的レビューを行った。具体的には、Cochrane Skin Group’s Specialised
Register、the Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE (2000年〜),
EMBASE (1980年〜)、 the metaRegister of Current Controlled Trials (〜2009年3月)を参照し、加えてレファレンス及び会議録も検索して参照した。また、一切他の治療を行っていないアトピー性皮膚炎患者に対して黄色ぶどう球菌を減少させる介入を行い、症状を比較したRCTも検討に加えられた。文献は出版状況及び使用言語に関わらず、調査対象に含めた。
 26件の文献を対象として、1229名の患者に関する情報を得た。文献検索の対象となった調査の大部分は短期的で、質が低かった。ある一つの報告では、感染を合併しているアトピー性皮膚炎に対して内服抗生物質を使用した場合とプラセボを投与した場合とを比較しているが、全体的な皮膚症状の改善結果に有意差はみられなかった(相対リスク(RR)0.40、95%信頼区間(CI)0.13-1.24)。また抗生物質含有ステロイド外用薬とステロイド外用薬単剤の使用が比較された2つの報告でも、同様に治療効果に有意差はみられなかった(RR 0.52、 95% CI 0.23-1.16)。
 感染を合併した皮膚炎症状を有する小児アトピー性皮膚炎患者を対象とした研究では、浴槽の湯に漂白剤を入れて入浴した小児患者は、単なるお湯で入浴した小児患者よりも、アトピー性皮膚炎の症状が著しく改善したと報告している。ただし、この違いは平均値への回帰として説明できる可能性がある。結果をまとめると、抗黄色ぶどう球菌薬による介入治療は非感染性アトピー性皮膚炎患者の皮膚に存在する黄色ブドウ球菌数を減少させはしたが、皮膚炎症状そのものを改善させるという臨床的有用性は示されなかった。
 今回の検討では、非感染性の湿疹病変に対して一般的に行われている抗ブドウ球菌薬投与の有効性を示す証拠はみられなかった。以上の結果より、今後長期間にわたるより質の高い研究がその有効性を証明するまでは、確固とした根拠のない抗ブドウ球菌薬投与は行うべきではないと結論している。