脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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皆様、アトピー性皮膚炎に対する新しい治療薬が期待されていますが、その一つであるデュピルマブについて検討してみました。ご一読ください。

デュピルマブはIL-4受容体αに対する抗体で、IL-4とIL-13の作用伝達を阻害する。この働きのため、アトピー性皮膚炎の湿疹は16週間後に「消える」と「ほとんど消える」になるのが4割近くにもなり、プラセボの約1割に比べて非常に良くなると宣伝されている。治験対象者は18歳以上の大人のアトピー性皮膚炎患者で、治療が旨く行かず症状が中等症あるいは重症のアトピー性皮膚炎患者である。この4割の人は、観察者の全体的な評価(IGA)で「皮疹が消えた」か「皮疹がほとんど消えた」であり、かつ重症度スコア(0から4まであり)2ポイント以上低下していた、という。
しかし、良く調べてみると、治験に入る前にそれまでの影響をなくすために35日間の無治療期間を設けているのであるが、これから治験を始めるという基準日から、4週間以内に免疫抑制剤や光線治療が必要と考えられる患者と1週間以内に外用ステロイドやプロトピックを使用した患者を除外している。このことはそれまでの治療を中止した後に強い症状の出た患者を除外していることになる。だから、対象患者は中等症と重症患者ではあるが、その中の相対的に軽症患者を選んで治験をしたことになる。私の考え方からすれば「それまでの治療を中止した後に強い症状の出た患者」とは、ステロイドやプロトピックからの離脱症状の重い患者である。今までの経験では、このような患者を除いた患者群は保湿もしない場合は早期に改善することが多い。
デュピルマブの治験中は1日2回保湿をしている。治験の途中で悪化すれば、ステロイドやプロトピック等の外用剤の使用は許可されている。治験終了時の16週時点での使用件数は、デュピルマブ群で2割に達しているが、プラセボ群では約5割である。この違いはデュピルマブ群の効果と言えるのであろう。しかし、4割の患者で良好な成績が出たという主張をもう少し詳しく見ていこう。
自覚症状と皮疹でスコア化するEASIテストでは初めの4週間で50%ほどの改善がみられるが、それを過ぎると急速に改善速度が減少し、12週頃からは70%以上改善せずその状態を維持するように見える。この間にプラセボ群では30~35%程の改善を示し、同じく12週を過ぎると改善傾向が止まるように見える。
シュピルマブ治療の観察者の全体的な評価と我々の成績を比較してみよう。我々の6ヵ月ステロイドを使用しない治療成績で、同じように全体評価をしてみると、最重症(4)、重症(3)から軽症(1)あるいは治癒(0)に変化した比率を計算してみると、13歳以上で6ヶ月後の調査ではあるが、最重症は65人中19人(29%)、重症は24人中4人(17%)となり、合計では89人中23人(26%)となっている。デュピルマブ群では、36~38%がIGAスコアが4、3から1あるいは0に改善している。偽薬群では8~10%が同じ改善を示している。私達が行ったステロイドやプロトピックを全く使用しない治療で最重症と重症の中の重症群を除いていない治療成績が、ステロイドやプロトピックの助けを借りながら最重症と重症の中の重症群を除いたデュピルマブの治療成績に少し劣るだけの成績を示しており、半数の治験者においてステロイドとプロトピックの助けを借りながらの偽薬群の治療成績の3倍弱改善している。我々の行っているステロイドやプロトピックを使用しない治療成績は大変優れていると言える。
デュピルマブの長期使用の効果と安全性については今後の検討が必要な段階です。
デュピルマブは生物学的製剤であり、高額になる見通しである。例えば、尋常性乾癬等に使用される生物学的製剤では薬剤費が月に15万円ほどになる。これと同程度の薬価になると考えられているので、患者負担3割は月に5万円ほどになる。この事から、治療の第一選択薬にはならないようであるが、製薬会社の要望で規制は甘くなるであろう。デュピルマブはほとんど中止できない治療のようであるので、いつまでも使い続ける必要がありそうである。税金から医療費として高いお金を製薬企業に回すのではなく、日本皮膚科学会は安いそして確実なステロイドやプロトピックを使わない治療を拡めていくべきであると考える。

皆様

今朝の毎日新聞に、6か月調査を載せていただきました。

https://mainichi.jp/articles/20170408/ddm/013/040/017000c

佐藤小児科   佐藤美津子

ステロイド治療側にも一定の配慮はされていますが、大きい紙面で全国版なので、患者さんたちに読んでいただけたらうれしいと思っています。

12月14日(日)の朝日新聞に、つげ書房新社から以下のように新版の広告が掲載されました。

「新版 患者に学んだ成人型アトピー治療、難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法 25日発売 
佐藤健二著/A5判並製/256頁/定価2400円+税
ステロイド剤や保湿の中止により、難治化アトピー性皮膚炎の依存症を軽減・消滅させ、アトピー性皮膚炎を自然治癒に向かわせる。 改訂新版」

本の最後には
「2015年1月10日第1刷発行」
とは出ていますが。

ご意見いただければありがたいです。

 「大人になっても治らないアトピー性皮膚炎」というアトピーについての恐怖感が世間には蔓延している。しかし、アトピー性皮膚炎は、ステロイドのない時代には、患者の84%が大人になるまでに治癒していた。したがって別に恐れる必要の無い病気である。
 現在、アトピー性皮膚炎で問題になっていることは、発生率の増加ではなくて、アトピー性皮膚炎が治らなくなって、青年や成人で増加していることである。この増加は、ステロイド外用および最近ではプロトピックやネオーラルという免疫抑制剤の使用によるものである。この報道や研究内容には、アトピー性皮膚炎でのステロイドや免疫抑制剤の問題点から人々の目をそらすことが大きな隠れた目的としてあることは間違いない。勿論、企業の営利目的の治療研究であるのは言うまでもないが。
 研究では、生後一週間未満の赤ちゃんに8ヶ月もの間毎日1回以上保湿剤を全身に塗らせている。この時期、赤ちゃんの皮膚は自然環境に慣れる訓練をしている非常に重要な時期である。その時期にまったく人工的な保湿剤を皮膚に外用し、正常でない環境を作らせている。このように考えるのは以下の経験があるからである。
 父親自身がアトピー性皮膚炎で、その父親が自分の子どもにはアトピー性皮膚炎に罹患してほしくない一心で生下時から数ヶ月間毎日ワセリンをわが子に塗っていた。その子どもを私は診察した。その子どもの皮膚は、病的な光沢を持った角化の強い異常な皮膚であった。外用を中止すると正常な皮膚に戻った。赤ちゃんの皮膚に毎日不自然なことをすることの危険性を実感した経験である。
 報道された内容では、皮膚の発育にとって不自然な環境を作る危険性を含むものであることが検討されたかどうか不明である。もし検討されていたなら、このような研究計画は立てられなかったであろう。大変問題のある研究内容であるし、結論についての広報はアトピー性皮膚炎での混乱に拍車をかけるものである。
 なお、予防を行ってもアトピー性皮膚炎は発症している。この研究者たちは、発症した子どもたちをプロアクティブ治療でステロイド漬けにする。そして、現在のアトピー性皮膚炎の問題を再生産させる。根本的な解決から遠のくばかりである。このような研究者たちがいる限り、先は暗い。

週刊文春編集局御中
2012.12.17
 私は記事の中に出ています皮膚科医師佐藤健二です。このような記事を掲載していただき、お礼を申し上げたく連絡をさせていただきました。
 日本皮膚科皮膚科学会から出されているガイドラインには「有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤は、ステロイド外用薬とタクロリムスである。」と記述されています。しかし、それを主張することができるエビデンスとしての文献の引用がありません。治療で非常に重要な薬物について引用文献がないということは、主張していることについて根拠がないということです。最も重要な薬物の効果と安全性についての引用文献がないということはガイドラインとして失格といえます。では、ステロイドやプロトピックによる治療の予後はどのようなものでしょうか。ガイドラインの責任者もガイドラインの治療ではなかなか治らないことを知っているようで、予後についての記述は「予後」の項目が作られておらず(恥ずかしくてその項目を作ることをためらったのでしょう)、「病態」の項目の中に「一般に慢性に経過するも適切な治療により症状がコントロールされた状態に維持されると自然寛解も期待される疾患である。」と自信なさそうに述べるだけです。皮膚科医や小児科医はこのガイドラインを基に「ステロイドを使わないとアトピーは治らない」と患者に説明し、その治療に従わない患者を叱りつける場合が非常に多いです。患者無視もひどいものです。
 ガイドライン作成者の責任者である古江先生は、仕方なしに自分の論文(Br J Dermatol 2003; 148: 128-133)でいろいろ話をされます。この論文を使ってプロトピックの有効性についても述べられておられます(アレルギー・免疫2004; 11: 116-23)。以前はステロイド外用薬は35g使用していたがタクロリムス外用によって15gに減ったと。確かに以前はステロイドだけで35gでした。それから比べれば20g減っています。しかし、実際に使ったのはステロイド15gに加えてタクロリムス70gです。タクロリムスの作用の強さはステロイドのストロングクラス(上から3番目でリンデロンと同じ程度)と同じなので、ステロイドに換算すれば合計85g、従って以前の2倍以上使用していることになります。良くなって当たり前です。そして、「タクロリムス軟膏の外用によってステロイド外用量が減少していることが窺える。」と述べておられる。確かにステロイドの量は減ってはいますが、見え透いたトリックで誠実な議論であるとは言えないと思います。
 初めの論文(記事の中に出ていた論文です)について少し追加しますと、6か月のステロイド治療で重症度が改善したのは38%、変化しなかったのが59%、悪化したのが3%です。先日ある学会で、このデータを紹介し、「ガイドラインによるステロイド治療で良くならない人がたくさんいる。学会が排斥する脱ステロイド・脱保湿でこんなに良くなる人がいる。だから、脱ステロイド・脱保湿を治りにくいアトピー性皮膚炎の患者の治療として認めるべきである」旨の発表をしました。古江先生の反応は「脱ステロイドなどを言うのは皮膚科医の治療に対する冒涜である」との発言でした。私が紹介した症例が余りにも綺麗に治っているので、話を変な方向に持っていかざるを得なかったのでしょう。
 ステロイド治療がよいという根拠を示せず、実際のデータは悲惨な結果であり、きれいに治る治療がガイドラインに従っていないためにそのような治療は皮膚科医の冒涜であると述べる学会の体質はいったに何なのでしょうか。ステロイドやプロトピックで治りにくくなっているアトピー性皮膚炎患者さんの生の声を全く聞こうとしない態度は、昔言われた象牙の塔の中の人々という批判は今でも当てはまっているとしか言いようがないように思います。
 貴社の記事は、タイトルは若干的外れ(人目を引く効果は十分あります)と言わざるを得ませんが、上記のような事態を改善させ、ガイドラインの治療で困っておられる患者さんにとって大きな力になると考えます。今後ともこのような記事を多く掲載していただくよう心からお願いいたします。