脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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皆様

日本小児アレルギー学会が以下のお知らせを発表しています。
これは「IgG」抗体に関するものです。日本でよく行われている「IgE」抗体はどうなっているのでしょう。IgE抗体でも健康人に多く陽性が出ているはずですから、スクリーニングとして行うのは推奨できないと言うべきでしょう。

血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起
日本小児アレルギー学会は、食物アレルギーの原因食品の診断法としてIgG抗体を用いることに対して、「食物アレルギーハンドブック 2014 子どもの食に関わる方々へ」(2014年日本小児アレルギー学会発刊)において推奨しないことを注意喚起しています。米国や欧州のアレルギー学会でも食物アレルギーにおけるIgG抗体の診断的有用性を公式に否定しています。
その理由は、食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体であり、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもあるからです。
日本小児アレルギー学会は食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないことを学会の見解として発表いたします。

参考文献:
食物アレルギーハンドブック 2014 子どもの食に関わる方々へ」(2014年日本小児アレルギー学会発刊)
Stapel SO, et al. Allergy 2008; 63: 793-796.
Bock SA, et al. J Allergy Clin Immunol 2010; 125: 1410.

平成26年11月19日
日本小児アレルギー学会
http://www.jspaci.jp/modules/membership/index.php?page=article&storyid=91
食物アレルギー委員会

皆様

 2014年9月に、日本皮膚科学会作成、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインの内容を改訂することを要求する16112筆の署名を日本皮膚科学会に提出しました。その後の日本皮膚科学会の動きについてご報告いたします。

 日本皮膚科学会雑誌125巻1号、150-154頁(2015年)に、平成26年9月5日(金)13:00~16:00に行われた平成26年度第7回理事会議事録要録が掲載されています。その中の最終項目に「22. その他の議題の3)」に「アトピー性皮膚炎患者会からの意見書」として以下が載っています。
「島田理事長から,資料に基づき報告があった.
①アトピー性皮膚炎診療ガイドラインに関する質問について
  朝日新聞記者よりアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに対する質問があり,回答した旨,報告があった.
②アトピー性皮膚炎患者会からの意見書について
  アトピー性皮膚炎診療ガイドラインにステロイド系が標準治療と記載されており,その他の治療法について記載していないため,改訂の再に記載してほしい旨の意見書の提出があった.これについて,個別的な治療選択を否定するものではないとの回答書を作成したことの報告があった.」

 この記事を皮膚科学会員佐藤健二が読み、以下の電子メールを皮膚科学会へ2015年1月27日に提出いたしました。

担当者殿
前略。
「平成26年度第7回理事会議事要録」のなかに「22. その他の議題」として、「3)アトピー性皮膚炎患者会からの意見書」についての記述がございます(日皮会誌:125(1):154、2015)。この意見書は「atopic代表 菊池巧 伊藤愛子」から「日本皮膚科学会会長 島田眞路殿」に出された「『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン』の内容改訂を求める署名」のことでしょうか。もしそうでしたら、要録の中には「回答書を作成した」と記されていますので、その内容を知りたいと患者会代表の方から連絡を受けました。そこで代表の方の代理で私のほうからお尋ねさせていただきます。この回答書を患者会の代表のほうにお送りいただけますでしょうか。また私にもコピーをお送りいただければ大変うれしく存じます。
回答書をお送りいただけるのでしたら下記にお送りください。
〒 599-8261
大阪府堺市中区堀上町123
サンヴレッジ 1F 佐藤小児科内
atopic署名運動事務局
atopic代表 菊池巧 伊藤愛子
私の方は
〒580-0023
大阪府松原市南新町3-3-28
阪南中央病院皮膚科
佐藤健二

お忙しいとは存じますが、よろしくお願いいたします。
佐藤健二

 このメールを出した後、皮膚科学会からは、メールを受け取ったとの返事は来ていません。「作成した回答書」についてもatopic代表のほうに届いていないことを確認しています。したがって、現在は日本皮膚科学会からの返事待ちの状態です。返事が遅ければ再度たずねてみようと考えています。

 多くの方々の希望を伝えるための署名を生かすために、今後も日本皮膚科学会に働きかけたいと思っています。簡単ではございますが、署名提出後の日本皮膚科学会の動きについてお知らせいたしました。

2015年2月16日
阪南中央病院皮膚科 佐藤健二

アトピー性皮膚炎治療研究会 第19回シンポジウム 報告

皆様 遅くなりましたが、ご報告いたします。

 2014年2月2日、アトピー性皮膚炎治療研究会、第19回シンポジウムが広島大学医学部で開かれました。主催者(皮膚科教授、秀 道広先生)の予想と違って、予想の約2倍の出席者がありました。開会前に急遽机と椅子が運び込まれました。それでも立ち見が出るほどです。おそらく、脱ステのポスター演題が3つも出ているので激しい議論が行われるだろうという予想で多くの参加者があったのだと思います。それを裏付けるものは、プログラム・抄録集に「ワークショップでのディスカッション」では「スムーズな運行のためにお一人の発言時間を1回1分以内に限らせていただきます。」と書き、当日、そのことのみを注意書きとして印刷し、参加者全員に配布したことです。

 開会の挨拶をした広島大学皮膚科の秀(ひで)教授は恐る恐る開会の言葉を述べていました。抄録集の「ご挨拶」の内容も抑制的なものです。

 ワークショップ1は金沢大学皮膚科、竹原教授が「アトピー性皮膚炎におけるガイドラインの役割」と題して話されました。2000年に作られたガイドラインは、医師向けというより、当時起こっていたステロイドバッシング対策だと簡単に述べられた後、脱ステの批判と自分が調べたアトピービジネスのことを長く話されました。討論に入って私が「ステロイドを使わずに治療をしてほしいという患者が来ても、ガイドラインが書いていないので行わない、あるいは診療を拒否するというようなことが起こっているが、インフォームドコンセントとの関係で問題ではないか」と言いましたが、誰も反応しませんでした。何を言うかを前もって伝えてあったので、おそらく主催者(この時の司会の秀教授)は「話はさせるがそれに対してできるだけ反応しないでおこう」という戦術で進めようと決めていたようです。
 面白いことに、討論の中で、竹原教授は今のガイドラインに従って私は診療をしていない、と言われてました。特にFTU (finger tip unit)についてはエビデンスもなく良くないと言ってました。
 結局最後に秀教授は、ガイドラインは役割を果たしているとまとめていいですね、と無理やりまとめてしまいました。反論すべきとも思ったのですが、初めからそのような結論を出そうとと決めてかかっていたようなので、今回は何も言わないでおきました。いずれにせよ、一見脱ステ医師の意見なども聞くような柔軟な先生のように見えますが、ステロイドで問題が生じている患者のことを考えようという姿勢は全くない、あるいは表に出したくないという態度は明らかでした。

 特別講演は、東北大学薬学部の平澤教授の「ステロイド薬の作用機序」についてでした。一般的な話から特にステロイドが効かなくなる機構について幾つかの実験データをもとに話されました。ステロイドを使っていると効かなくなるということについては承認せざるを得ない内容でした。皮膚科学会にとっては痛い話です。

 ワークショップ2は大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター(旧羽曳野病院)の片岡先生の「ステロイド外用薬をどう使うか」の話でした。至る所で脱ステでこんなに悪くなっている、ステロイドを塗ったら直ぐこんなに良くなる、ということと、TARCで病勢を追えばすべてうまくいくというお話でした。普通の皮膚科医はステロイドの塗り方を知らない、私は知っていてそれに従ってほしい、というようなことも言われてました。その方法はプロアクティブ療法です。自信たっぷりな雰囲気で話されていたましたが、そのやり方で良くならない人が1年後に40%ありました。討論の中でTARCと病勢が合わない症例のあることが述べられましたが、羽曳野病院でもそのような症例のは存在するといわれてました。「大丈夫かな?」と思ったのは私だけではないような雰囲気でした。

 ランチョンセミナーは、北京大学皮膚科教授の話でした。中国では皮膚科医が少ないこと、アトピーに対しては知識が無く、治療も塗り過ぎや塗らなさ過ぎがあるということと、皮膚科医の治療に対して従わない患者が多くいることなどを話され、治療を統一するために2008年にガイドラインを作ったというお話でした。中国でもアトピー性皮膚炎の罹患率は増加しているそうです。ステロイド治療はあります。ガイドラインは日本のものと良く似ています。市販薬のステロイドもあるそうです。

 特別講演2は広島大学の平郡先生の「アトピー性皮膚炎と汗アレルギー」の話でした。汗の中に蕁麻疹を起こす物質があり、それは癜風菌の一種Malassezia globosa が産生するMGL_1304という短い蛋白質と同じ配列を持っているとのことです。その物質がどこから出てきたかはまだ不明です。今後臨床と比較しながら、そのタンパク質の持つ意義を調べる必要があるようです。

 最後はワークショップ3でした。発表者は、自分がアトピー性皮膚炎患者で今でもステロイドを痒くなったら塗っている独協医科大学越谷病院皮膚科教授の片桐先生でした。演題は「アトピー性皮膚炎の長期予後」で、重症の10%はどうしようもなく治らないようですね、と言われてました。「片桐先生自身はステロイドを塗っていたら治ると思いますか」という質問に対して、「自分は、ステロイドを塗っても良くならないと思っている」と、平気で言っておられました。
 討論の時、私は、長期予後は重要で、脱ステとステロイド治療の経過を20年ほど追跡するような研究が必要なので、学会として取り組むべきである、と言いました。司会の杏林大学塩原先生は、長期予後については重要と考えておられて、しばらく長期の追跡調査について何人かの先生方と議論をしていました。しかし、長期の追跡調査をするというまとめにはなりませんでした。

 ポスターについての討論については、中国の先生の話の後30分ほど討論時間が設けられていたのですが、この先生が15分ほど話を伸ばしたので、15分ほどしか討論時間はありませんでした。2-3人の先生が質問されていました。

 まとめは変になりましたが、討論で脱ステロイドを行っている医師が3人発言しましたので、脱ステを行っている医師がまだいることを印象付けることはできたと思います。ガイドラインについての主催者のまとめがおかしいことも皆さんはお分かりだと思います。

 以上、簡単なご報告まで。

2013年6月15日、第112回日本皮膚科学会総会の「土肥記念交換講座2」において、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科教授、Peter M. Elias先生は招聘講演をされた。アトピー性皮膚炎の治療についてである。内容の多くは、論文Epidermal Barrier Dysfunction in Atopic Dermatitis(アトピー性皮膚炎における表皮バリア機能障害)、Cork MJ, J Invest Dermatol 2009; 129: 1892-1908に沿ったものであった。講演の最後近くで、ステロイド治療に関して、「ステロイド外用はrebound flare(リバウンド悪化)が起こるので、使用を減らすべきである」旨の言及をされた。アトピー性皮膚炎に対してのステロイド外用治療について類似の言及が、この論文には含まれている。アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用には問題がありそうだというのが現在のアメリカの考え方のようである。これに関連して、日本のある皮膚科教授は、「Corkのこの論文は脱ステ派に有利な論文ですね」と述べられた。情勢は少しずつ変わってきている。

 2013年6月14-16日に第112回日本皮膚科学会総会が開かれた。14日のイブニングセミナー5で「経皮感作とアレルギーマーチ」と題して島根大学医学部皮膚科教授、森田英伸先生が講演された。講演抄録には、「最近、Lackらにより食物アレルゲンの経皮感作が食物アレルギーの発症に重要であることが提唱され、加えてアトピー性皮膚炎患者でフィラグリンの異常が見いだされたこと、加水分解小麦含有石鹸の使用で小麦アレルギーが多発したことから、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症には皮膚バリアの障害が根本であると考えられるに至った。」とある。
 アトピー性皮膚炎患者は皮膚バリア機構が障害されているから、一般人より経皮感作が高頻度に起こるであろうと多くの学者が考えている。上記学会でもこの考え方に沿って幾つかの発表があった。そして、バリア機構を正常に復するためにはステロイド外用剤を使用して皮膚の傷を治さなければならない、放置していればアレルギーマーチが進行して種々のアレルギー疾患を獲得することになると主張されている。この考え方は、茶のしずく石鹸でアレルギーを獲得した人の中で、アトピー性皮膚炎のない一般人よりアトピー性皮膚炎患者において小麦アレルギーの発症頻度が高い場合に初めて主張できる考え方である。このイブニングセミナーの座長をされた京都大学医学部皮膚科教授、宮地良樹先生は講演が終わった後で次の質問をされた。「小麦アレルギーを発症した1800人ほどの患者さんの中でアトピー性皮膚炎患者さんは何パーセントぐらいですか」と。森田教授の答えは次のような内容であった、「小麦アレルギーを起こした患者さん1800人ほどの10%ぐらいです。一般の人口中のアトピー性皮膚炎患者さんの比率はだいたい10%ですので同じくらいの頻度です。」と。この数値から確実な見解を出すには、アトピー性皮膚炎患者とそうでない人の二グループ間で、石鹸使用頻度の差、アレルゲン(あるいはハプテン)の違いによる差、アジュバントの働きの違い、ステロイド外用の影響などを検討しなければならないが、少なくとも森田教授が示した数字からはアトピー性皮膚炎患者において経皮感作が高いとは言えないことを示している。
 一般に、角層は低分子量の脂溶性ハプテンを透過させるが水溶性で大きな多糖タンパク質を通さないと言われている。今回問題になっている加水分解小麦のグルパール19sは6万以上という分子量でありこのような大きな分子量をもつものでも差がなかったということであるならば、アトピー性皮膚炎患者にとって経皮感作は一般人と同じ程度に心配すればよいということになる可能性も秘めていると言えよう。また、アトピー性皮膚炎の悪化にIgEが関係するという説も怪しいものであり、この点からも経皮感作を重大視する必要はない。いずれにせよ、現段階でアトピー性皮膚炎患者に、アレルギーマーチが進行するからステロイドを塗って傷を早く治せという治療方針は説得性がないことは明らかである。