脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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2013年6月15日、第112回日本皮膚科学会総会の「土肥記念交換講座2」において、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科教授、Peter M. Elias先生は招聘講演をされた。アトピー性皮膚炎の治療についてである。内容の多くは、論文Epidermal Barrier Dysfunction in Atopic Dermatitis(アトピー性皮膚炎における表皮バリア機能障害)、Cork MJ, J Invest Dermatol 2009; 129: 1892-1908に沿ったものであった。講演の最後近くで、ステロイド治療に関して、「ステロイド外用はrebound flare(リバウンド悪化)が起こるので、使用を減らすべきである」旨の言及をされた。アトピー性皮膚炎に対してのステロイド外用治療について類似の言及が、この論文には含まれている。アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用には問題がありそうだというのが現在のアメリカの考え方のようである。これに関連して、日本のある皮膚科教授は、「Corkのこの論文は脱ステ派に有利な論文ですね」と述べられた。情勢は少しずつ変わってきている。

 2013年6月14-16日に第112回日本皮膚科学会総会が開かれた。14日のイブニングセミナー5で「経皮感作とアレルギーマーチ」と題して島根大学医学部皮膚科教授、森田英伸先生が講演された。講演抄録には、「最近、Lackらにより食物アレルゲンの経皮感作が食物アレルギーの発症に重要であることが提唱され、加えてアトピー性皮膚炎患者でフィラグリンの異常が見いだされたこと、加水分解小麦含有石鹸の使用で小麦アレルギーが多発したことから、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症には皮膚バリアの障害が根本であると考えられるに至った。」とある。
 アトピー性皮膚炎患者は皮膚バリア機構が障害されているから、一般人より経皮感作が高頻度に起こるであろうと多くの学者が考えている。上記学会でもこの考え方に沿って幾つかの発表があった。そして、バリア機構を正常に復するためにはステロイド外用剤を使用して皮膚の傷を治さなければならない、放置していればアレルギーマーチが進行して種々のアレルギー疾患を獲得することになると主張されている。この考え方は、茶のしずく石鹸でアレルギーを獲得した人の中で、アトピー性皮膚炎のない一般人よりアトピー性皮膚炎患者において小麦アレルギーの発症頻度が高い場合に初めて主張できる考え方である。このイブニングセミナーの座長をされた京都大学医学部皮膚科教授、宮地良樹先生は講演が終わった後で次の質問をされた。「小麦アレルギーを発症した1800人ほどの患者さんの中でアトピー性皮膚炎患者さんは何パーセントぐらいですか」と。森田教授の答えは次のような内容であった、「小麦アレルギーを起こした患者さん1800人ほどの10%ぐらいです。一般の人口中のアトピー性皮膚炎患者さんの比率はだいたい10%ですので同じくらいの頻度です。」と。この数値から確実な見解を出すには、アトピー性皮膚炎患者とそうでない人の二グループ間で、石鹸使用頻度の差、アレルゲン(あるいはハプテン)の違いによる差、アジュバントの働きの違い、ステロイド外用の影響などを検討しなければならないが、少なくとも森田教授が示した数字からはアトピー性皮膚炎患者において経皮感作が高いとは言えないことを示している。
 一般に、角層は低分子量の脂溶性ハプテンを透過させるが水溶性で大きな多糖タンパク質を通さないと言われている。今回問題になっている加水分解小麦のグルパール19sは6万以上という分子量でありこのような大きな分子量をもつものでも差がなかったということであるならば、アトピー性皮膚炎患者にとって経皮感作は一般人と同じ程度に心配すればよいということになる可能性も秘めていると言えよう。また、アトピー性皮膚炎の悪化にIgEが関係するという説も怪しいものであり、この点からも経皮感作を重大視する必要はない。いずれにせよ、現段階でアトピー性皮膚炎患者に、アレルギーマーチが進行するからステロイドを塗って傷を早く治せという治療方針は説得性がないことは明らかである。

日本皮膚科学会中部支部学術大会の報告

 2011年11月19日に上記学会で口頭発表をしました。その内容の概略とその後の質疑応答につき報告させていただきます。正確な発言内容を記憶しているわけではないので文責は佐藤にあります。
 学会抄録は以下の通りです。
「脱ステロイド・脱保湿により改善した成人型アトピー性皮膚炎3症例
阪南中央病院 皮膚科 佐藤健二
 日皮会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、ステロイド外用剤とプロトピックの有効性と安全性を立証する文献は不提示である。ガイドラインに影響のある古江氏の論文(BJD, 2003)では、6か月のステロイド治療を行い、治療開始時と終了時の皮疹の重症度比較をしている。重症度が改善した率は38%、変化無しは59%、増悪は3%で、治癒者はなかった。ステロイド治療では治りにくいことが分かる。当院では治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法を行っている。その主要な内容は、ステロイド離脱、保湿離脱、水分制限、食事制限なし、運動、規則正しい生活、精神的ストレス削減、掻くなと言わないこと、爪切り励行、止痒剤内服である。脱ステロイド・脱保湿後に一次的な増悪の後、著明な改善がみられた3名の患者の治療経過を供覧する。ガイドラインに、ステロイド外用治療で治りにくいアトピー性皮膚炎患者の治療として、脱ステロイド・脱保湿療法を含めるべきであると考える。」
 話の内容は大体以上の通りに行いました。症例は「第91回 阪南中央病院 健康教室、2011年4月23日、松原図書館2F集会室」で行った講演の症例と同じです。そして、スライドの最後に、「アトピー性皮膚炎のガイドラインには『ステロイド治療で治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法は有効な治療である』を入れるべきである」と更に「皮膚科入院施設は脱ステロイド・脱保湿療法を習得すべきである」を入れました。
 発表は制限時間より30秒ほどオーバーしました。
 終わると、会場の中央から一人の先生が意見を述べるために私の真正面のすぐそばにあるマイクの前に出てこられました。何と古江増隆先生(九州大学医学部皮膚科教授、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン最高責任者、上記の古江氏のこと)ではありませんか!。私は古江先生が会場におられることを全く知りませんでした。浜松医科大学皮膚科教授、大阪市立大学医学部皮膚科教授、岐阜大学医学部皮膚科名誉教授の少なくとも3名の方と尼崎医療生協病院皮膚科の玉置先生がおられるのは知っていましたが。
 第一声は「詳しく検討していただいて有難うと言いたいところですが」といつもの紳士的な言い方が終わったとたん、「脱ステロイドとはいったい何ですか、脱保湿とはなんですか」怒鳴りこみの質問と言うか、突然まくしたて始められました。「この論文はアクセプトされるのに3年かかりました。査読者の意見は、『日本のアトピー治療ではステロイド外用量が少ない。だから、成績が悪くて当たり前だ。』というものだ。この論文は治療成績がいい悪いということを言おうとしたものではない。ステロイド外用量の調査をしたのですよ。いいですか、大人や子供では6か月の平均でたった95gや45gしか使ってないんですよ(その場では145gとか言われたように思いましたが、原典を見て95と45にしました)。だから、もっと塗らなくてはならないんですよ。私の論文で成績が悪いと言っているが、ステロイドを塗ったら100%よくなると言う論文ぐらいいくらでもある。あなたは経過はどれだけ追ったのですか。何人の人が良くなったのですか。」と何処で答えを言っていいのやら困るほどに早口でまくしたてられました。入院患者ではですね、と答えようとすると「入院すればだれでも良くなることぐらい知らないのですか。そんなことは1900年の初め頃から分かっていますよ。」と言われたので、ではいったん増悪するのはどう説明したらいいのか、説明できないでしょう、と答えました。答えに窮したためでしょうか、何で言われたのか分かりませんが、「いくら入院患者でどうのこうの言ってもだめですよ。」と言われたので、第1例目は外来患者ですがと答えると一瞬詰まられました。しかし、「ステロイドを止めたらアトピーが良くなると言っているがそんなことはあり得ない。」と言われたので、私はこれまで一度としてストロイドを止めてアトピーが治ると言っていません、ステロイド依存性が治ると言っています、どちらかと言えば逆に、ステロイド依存性が治ればアトピーは出てくると言っているのです、といいました。
 ここで、発表の内容に対する質問で無いので、座長に、私がこのような発言は学会の場ですることではないように思いますが、というと、座長もうなずかれました。が、古江先生は脱ステロイドはけしからんなどと話し続けられました。たまりかねて、玉置先生が割って入るようにして、「わたしもステロイドを使わないでほしいと言われる患者さんにはステロイドを使わない治療をします。ステロイドを使った治療もします」と、言われました。しかし、古江先生は、今度は「脱ステロイドはステロイドを使う皮膚科医の治療を冒涜することだ。けしからん。皆さんそう思いませんか。」と後ろを振り向いて賛同を得ようとしました。しかし、古江先生の期待に反して、賛同の声は一つもありませんでした。私が気付いた範囲では、一人だけ首を縦に振っておられました。古江先生が余りにもまくし立てられたので、ほとんどの聴衆はあっけにとられて返事を忘れたのかもしれませんが、私の感じ方からすれば、ほとんどの人は賛同されなかったような気がしました。座長に促されて古江先生は元の席へ戻られました。
 次に兵庫県立がんセンターのK先生が発言されました。いつも通り声が小さかったのでほとんど聞き取れませんでした。症例を選んで脱ステロイドをするべきであるというようなことを述べられたのかもしれません。
 最後に岐阜大学医学部皮膚科名誉教授が質問されました。その質問は、皮膚科の学会としては本質的に重要な質問でした。「酒皶様皮膚炎ではないのか。言おうとしている皮疹はどんな皮疹なのか。区別して説明してほしい」と。質問が少しわかりにくかったこともありますが、これに対しての私の答えは少しまずかったと思います。次のように言うべきだったと思います。「酒皶様皮膚炎の定義は顔面の皮疹での定義で、顔面のステロイド依存性皮膚症である。酒皶様皮膚炎の場合はステロイドを塗ることによって安定している状態を記述している。ステロイド依存性皮膚症は、酒皶様皮膚炎を含めた概念で、全身の皮膚で起こっている『酒皶様皮膚炎』のことであり、皮疹の形態はどのような形でも存在するので特定の皮疹を示すことはできない」、と。座長が終了を宣言されました。
 机の上にあったタイマーから判断すると、私の発表に関して13分間の議論があったようです。ちなみに規定の討論時間は3分です。  以上。
 簡単な感想ですが、学会側はだいぶ焦っているようですね。だからテレビでプロアクティブ治療を頻回に宣伝するのでしょう。

「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」批判
(1)診療ガイドラインの公表
 日本皮膚科学会は、2008年になり、初めてアトピー性皮膚炎に関する体系的な「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を公表しました。翌年にはそれを改定しました。2008年までは、診断基準と重症度分類と治療ガイドラインがそれぞれ別々に発表されていました。診療ガイドラインができたことによって初めて日本皮膚科学会の考え方の全体像が分かるようになりました。従って、このガイドラインを基に、皮膚科学会の考え方の良くない点も系統的にわかるようになりました。今後、特に断らない限り、ガイドラインといえば2009年版のガイドラインのことを指すことにします(古江増隆他、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン、日皮会誌:119、1515−1534)。
(2)ステロイド外用治療の社会的混乱を隠蔽
 1)ガイドラインに記述された外用ステロイドの副作用
 アトピー性皮膚炎患者のステロイド外用による副作用についてガイドラインの記述をまとめると次のようになります。「ステロイド外用薬の副作用」として、例外的に行われるリンデロンVの大量外用(1日20gを使い、サランラップで巻いて吸収をよくした場合)で副腎機能抑制は生じるが、「ステロイド外用薬を適切に使用すれば、日常診療における使用量では、副腎不全、糖尿病、満月様顔貌などの内服薬でみられる全身的副作用は起こり得ない」。局所的副作用として「ステロイド痤瘡、ステロイド潮紅、皮膚委縮、多毛、細菌・真菌・ウイルス性皮膚感染症などは時に生じうる」。ステロイド外用薬の使用後に生じる色素沈着は皮膚炎による色素沈着であり、ステロイド外用によるものではない。ステロイド外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎も起こる、と。
 2)酒皶様皮膚炎を除外すべき診断に入れず
ここまでの副作用に関する記述は、炎症後の色素沈着がさざ波様になることについてはステロイドの影響もあると考えるべきである点を除けば間違いではありません。しかし、皮膚科学会会員の中でも知名度の高い酒皶様皮膚炎は上記記述の中に含まれていません。酒皶様皮膚炎は、ステロイド薬を顔面に外用することにより生ずる医原性の病態、ステロイド酒皶であることは周知のことですし、外用ステロイドの副作用として命名された疾患です。このステロイドの局所的副作用の病態がタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏のこと)の外用によっても起ることが後に分かりました。しかし、外用剤の副作用としての酒皶様皮膚炎をタクロリムスの局所的副作用としてのみ挙げているのです。2009年版ガイドラインでは、稀の稀の稀にみられるような珍しい疾患を「除外すべき診断」の中に新たに入れていますが、2008年版と同じく、広範に生じている酒皶様皮膚炎を「除外すべき診断」に入れていません。
3)酒皶様皮膚炎は顔面のステロイド依存性皮膚症
酒皶様皮膚炎では、ステロイド外用を続けていれば顔面の皮膚はある程度安定した状態を保ちますが、中止によって激しい離脱症状が起り、その後で良くなる、というステロイド外用剤に対する依存状態を示します。だから、酒皶様皮膚炎は顔面に限られたステロイド依存性皮膚症と言えます。アトピー性皮膚炎では全身に皮疹が出現することも少なからずあり、ステロイド外用が全身に及ぶ場合もあります。全身外用の場合も、ステロイドを止めなければ皮膚はある程度安定した状態が続きますが、中止によって全身に激しい離脱症状が起り、その後で良くなるということが起こります。従って、アトピー性皮膚炎の場合、長期間継続して(乳幼児の場合は一カ月以内でも起こります)ステロイド外用剤を塗っていて、ステロイド外用を中止しようとすると悪化してステロイドを止めることのできない時は、顔面に限らず外用部位全体が酒皶様皮膚炎、すなわちステロイド依存性皮膚症になっていることになります。
4)「局所的副作用」の「ステロイド潮紅」とステロイド依存性皮膚症
 ガイドラインでは、「局所的副作用」として「ステロイド潮紅」を認めています。しかし、「近年しばしばみられる成人患者の顔面の紅斑性病変の多くは,掻破などを含むステロイド外用薬以外の要因に起因するものではあるが,局所の副作用の発生には注意が必要な部位であり,処方に当たっては十分な診察を行う.」(p1525右段)と述べるにとどまり、顔面の紅斑性病変についてステロイド外用の局所的副作用として認めないような表現です。また、「局所的副作用」の「ステロイド潮紅」などは「時に生じうる」程度であり「中止あるいは適切な処置により回復する.」(p1526左段)と記述しています。酒皶様皮膚炎の場合は、ステロイド中止後に激しい離脱症状が出現しますので、ここでは酒皶様皮膚炎、すなわちステロイド依存性皮膚症は全く考慮の対象となっていません。しかし、「局所の副作用の発生には注意が必要」であるならば「ステロイド外用薬以外の要因に起因するもの」と「局所的副作用」としての「ステロイド潮紅」をどのように鑑別するのかを明確にさせる必要があると思われます。この鑑別方法は何処にも記述されていません。
5)全国調査の成人アトピー性皮膚炎患者
「2007年に実施された皮膚科受診患者の多施設横断全国調査では,本症の受診患者は0〜5歳と21〜25歳をピークとする2相性の分布を示し,46歳以上の患者が全体の9.64%を占めており,日常の診療では幅広い年齢層の患者が対象となることが示された.」と述べ、増加している思春期以降のアトピー性皮膚炎患者を普通のアトピー性皮膚炎患者として扱っています。脱ステロイドを希望する患者は特にこの年齢層で多く、この人々はステロイド外用を続けていれば徐々に必要量は増加しますが皮疹はかなり安定しています。しかし、ステロイド外用を中止すると激しい離脱症状を示して皮疹が消失していきます。この人々はステロイド依存性皮膚症を有しています。プロトピックを外用している人々も同じような依存性が存在します。もちろん幼小児でもステロイドやプロトピックを外用している人では同じ依存状態のアトピー性皮膚炎患者は多数います。ガイドラインはこのことに何も触れていません。
6)ステロイド依存性皮膚症の存在を隠したがっている
以上見てきたように、酒皶様皮膚炎を「除外すべき診断」の中に入れないだけでなくステロイド外用剤の顔面の副作用としてもガイドラインに記述していないこと、ステロイド外用中の患者がステロイド外用を中止した場合には激しい離脱症状の出現することが記述されておらず「中止あるいは適切な処置により回復する」と簡単な記述で済ましていること、成人アトピー性皮膚炎患者をその他のアトピー性皮膚炎患者と区別せずに記述していること、「ステロイド外用薬以外の要因に起因するもの」と「局所的副作用」としての「ステロイド潮紅」をどのように鑑別するのかを記載していないことは、アトピー性皮膚炎患者の外用部位全体にステロイド依存性皮膚症が生じていることを認めたくないことから起ってきています。
 アトピー性皮膚炎の治療に関して、日本において、依然としてステロイドやプロトピックの外用が大きな問題として厳然として存在しています。科学者でありアトピー性皮膚炎患者でもある人の苦しい自伝とその人も参加して行った1000人を超えるアトピー性皮膚炎患者についての調査結果が出版され、真摯な姿勢が貫かれた内容であるため広範に読まれています(安藤直子著、アトピー性皮膚炎 患者1000人の証言、子供の未来社、2008年)。ガイドラインの中にはこのような問題について一言も触れられていません。それどころか「Ⅰ.はじめに」の中には「その炎症に対してはステロイド外用薬やタクロリムス軟膏による外用療法を主とし」と述べ、ステロイド治療について全く反省する意思の無いことを明確にしています。
 7)ステロイドの有効性と安全性は保障されているのでしょうか?
 問題を正面から提出してみましょう。「アトピー性皮膚炎患者に対する長期にわたるステロイド外用剤の有効性と安全性は証明されていますか?」です。具体的に言えば質問はこうなります。「生まれてすぐから20年の間ずっとステロイドを付け続けているのですが、今後もステロイドを塗れば副作用もなく治るのでしょうか?」です。答えは「否」です。それはガイドライン自身がそれを吐露しています。「アトピー性皮膚炎の炎症を十分に鎮静しうる薬剤でその有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤は,ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏である.」を保証する文献をガイドライン中に示しえていません。ガイドラインなどの重要な文献において、主張すべき内容に関する引用文献の無いことは証明ができていないことを意味します。日本皮膚科学会が強調する「エビデンス」を問題にすれば、ステロイドやプロトピックの有効性と安全性を証明するエビデンスはないと言わざるを得ないのです。ガイドラインの薬物療法の第一番に記述されている薬物についてその根拠が示しうる文献がないということは信じがたいことです。
8)脱ステロイド治療に根拠はないのでしょうか?
 ガイドラインは、脱ステロイド療法と特定して述べてはいませんが、引用文献から判断すれば、この療法は「科学的に有効性が証明されていない」と断定しています。しかし、脱ステロイド療法は1979年には欧米で十分知られ、論文にもなっているものなのですから、エビデンスは存在するのです(Kligman AM, Frosch PJ, Steroid addiction, Int J Dermatol 1979; 18: 23-31)。日本でも文献は存在します(玉置昭治他、成人型アトピー性皮膚炎の脱ステロイド療法、日皮アレルギー 1993; 1: 230-234)。論文数が少ないあるいは知名度が少ないのは、この療法が知れ渡ると不利益を被る人が非常に多いので、その人々をバックにして知名度が上がらないように配慮されているためです。しかし、問題があまりに大きいので、その分研究が進み、非常に詳細な治療方法も明らかになっています(佐藤健二著、患者に学んだ成人型アトピー治療 脱ステロイド・脱保湿療法、つげ書房新社、2008年)。ガイドラインは、ガイドラインが批判している相手である脱ステロイド療法より優れていることを証明し得ていないことは明白です。
 9)プロトピック(タクロリムス)を高く評価する間違い
 現実の医療の現場では、皮膚科医はプロトピックを使う時に「ステロイドのような副作用の無い薬」を「副作用の無い薬」と少し省略して患者に説明して使用の承諾をもらうようにしています。許しがたいひどい省略です。薬の能書きには、動物実験において悪性リンパ腫の増加が認められ、人間でも悪性リンパ腫、皮膚癌の発現が報告されていることを患者に説明してはじめて使用することになっているのです(能書きではわざわざ「悪性リンパ腫」と記さずに、「悪性」を抜かして「リンパ腫」と記しています)。
 タクロリムスの内服薬(ネオーラル)は、臓器移植や骨髄移植の時に生じる移植免疫反応、すなわち拒絶反応を抑制するための非常に強い薬です。本来、自然に治るような病気に使うべき薬とは到底思えません。しかし、ガイドラインは有効で安全と言い切っています。そして副作用がないという短期の調査結果を示す文献を紹介しています。しかし、この薬の使用が発癌に対して安全であるというためには、何十年という期間の追跡調査が必要です。少数例の追跡調査は行っているようですが、この薬を使用するすべての子供たちに対してこの調査が行われるべきだと考えます。
 なお一言付け加えますと、プロトピックは、ステロイド外用剤で効果が不十分であったり副作用でステロイドが使えない場合に初めて使用するべきと説明されています。このことは、ステロイドで効かない症例のあることを日本皮膚科学会は認めたことなのですが、これについてはできるだけ目立たないようにしています。
 10)その他のガイドラインの問題点
 社会的問題以外についても、本ガイドラインには、個々の項目について問題点を指摘できます。そのいくつかを列挙しますと、診断基準において年齢に対する配慮が不足していること、診断の参考項目を実際の診断においてどのように利用すべきかを指示していないこと、重症度分類における各皮疹の治癒過程における位置づけが欠如していること、ステロイド外用中に効果の出なくなった痒疹対しては脱ステロイドが絶対的な適応になるにもかかわらずステロイド外用以外に効果がないなどの間違いが入っていることです。またステロイド外用による皮疹の変化や病状の変化を一切考慮していないことです。アトピー性皮膚炎本来の皮疹の悪化であるのか、治療に用いている薬剤すなわちステロイドやプロトピックの副作用による皮疹であるのか、を考慮していないことです。
 11)ガイドラインの歴史的有用性はあるのでしょうか?
治療方法が治療対象臓器に対して非常に強力に作用する場合には、対象臓器の正常な働きを大きく変えてしまうことが起こりえます。ステロイド外用剤はそのような強力な薬です。アトピー性皮膚炎ではほとんどすべての患者がステロイドで治療されています。アトピー性皮膚炎の炎症に対するステロイドの作用の他に、正常に機能している皮膚そのものにも強力に働いて正常な皮膚も変化させます。すると病像は大いに変化します。変わった病像を正確に評価し、変わったことに対処するためにアトピー性皮膚炎に対する治療医学は変化しなければなりません。治療方法を含め社会環境が時代とともに変われば治療の対象となる患者の病像も変わり、医学も必然的に変わらざるを得ませんから、特定のガイドラインについても歴史的な意義や有用性が問題となります。ガイドラインはこのような視点では全く見ていません。また、ステロイド治療についても反省していません。このようなガイドラインの歴史的な有用性はほとんどないだけでなく、時代に取り残され有害にさえなっています。ガイドラインは根本的に見直す必要があります。
(3)アトピー性皮膚炎の原因をアレルギーとあまり考えていないこと
 ガイドラインで注目すべきは、アトピー性皮膚炎がIgEアレルギーによって起こってきているということをあまり断定的に述べていないことです。しかし、この点についてももっと真剣に考察し、しっかりとした見解を出すべきでしょう。なぜなら、幼小児アトピー性皮膚炎治療におおけるIgE食事アレルギー説の弊害を克服する必要があるからです。

日本皮膚科学会に、ステロイド外用剤の副作用として、ステロイド依存性皮膚症をガイドラインに入れるように要望しました。以下がその内容です。今回は簡単に書きました。
日本皮膚科学会理事長 橋本公二 殿
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会委員長 古江増隆 殿
要望書
 近年増加しているいわゆる成人型アトピー性皮膚炎は、「ステロイド使用によって生じたステロイド依存性皮膚症を合併するアトピー性皮膚炎」(「患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法」(つげ書房新社、佐藤健二著)16頁)と、そして「ステロイド依存性皮膚症とは、皮膚が外用ステロイド無しには普通に機能しない状態で、外用中止により離脱症状を起こ」(同書)す状態と考えます。
 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(日皮会誌:119: 1515-34, 2009)には、タクロリムス軟膏の使用に当たって注意すべき事項として酒皶様皮膚炎が挙げられています。酒皶様皮膚炎は、タクロリムス軟膏の発売よりはるか昔にステロイド外用によって起こる副作用として認識されました。酒皶様皮膚炎は顔面に生じたステロイド依存性皮膚症と考えます。顔面に生じるものであればその他の部位にできないはずはありません。現在アトピー性皮膚炎患者の間で問題となっていることは、全身に生じている酒皶様皮膚炎、すなわちステロイド依存性皮膚症です。学会の慣習にそぐわず、先に発見されかつ広範に生じている副作用である酒皶様皮膚炎をステロイド外用剤の副作用として挙げず、さらに患者の間で社会問題ともなっているステロイド依存性皮膚症については全く言及がないことはガイドラインとしては適切でないと考えました。
 従って、平成22年3月10日付けで日本皮膚科学会専門医、深谷元継医師から提出された日本皮膚科学会あて要望書を支持するとともに、私もステロイド依存性皮膚症をステロイド外用剤の副作用に含めていただきたく要望書を提出させていただきます。よろしくお取り計らいをお願いいたします。
2010年4月3日
医療法人財団医療福祉センター 阪南中央病院 皮膚科 佐藤健二