脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
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2011.11.20NHKの番組について、アトピーに限って
佐藤健二
 2011.11.20NHKの番組でアトピー性皮膚炎の病因や治療の話が出ました。言おうとするところを要約すると、アトピー患者にはフィラグリン遺伝子に異常があり表皮のバリアーが障害される。表皮バリアー障害とこれによる痒みで掻破することにより更に表皮がつぶされ、アレルゲンが入り易くなる。アレルギー反応が起こって皮膚が障害される、と。このようにして痒みの悪循環が起こる。だから、表皮の遺伝的な障害を改善するためにも、掻破によって悪くされる皮膚を痒みを抑えることによって皮膚を守るためにも、ステロイド外用剤を塗って良くしましょう。それも、初期には強いものを塗って十分炎症を抑えるのがいい、と言うことです。これまで患者さんがステロイドを塗らないように希望されるようになったのは医師が十分説明をしていなかったからであって、きちんと説明すればいい治療ができるのです、と言うことです。
 この話には多くの問題点があります。
1.多くは2歳までに、ほとんどは成人までに自然治癒していたことを無視している。
   遺伝的な異常があっても、生体は調整する能力を持っており、これにより正常状態に持って行く能力を有していることを隠している。
2.フィラグリン遺伝子異常があれば全てアトピーになるような雰囲気を作っている。
   ヨーロッパ人にはフィラグリン遺伝子の異常は多いが、日本で調べられたフィラグリン遺伝子異常を持つ人は、102人に21名(21%)であった(J Invest Dermatol 2008; 128: 1436-41)。この調査は北海道在住の人が半分であり残りは本州などの在住者である。北海道では異常遺伝子を持つ人は多く、北海道以外では少なかった(その論文の指導者の言)。従って、日本全国で見ると20%を下回ると考えるべきである。だから、5人に一人はフィラグリンの異常でアトピーになる可能性を持つことになる。しかし、フィラグリンの異常があるからと言って必ずしもアトピーにはならないことは既に分かっている。従って、フィラグリン以上ですべてを説明できるような言い方はすべきではなかった。
3.アレルギーがどんどん再生産されるように言い方であるが、アレルギーで本当にアトピーが悪化することはほとんど証明されていない。遅延反応でもである。
   これは、ステロイドで治りにくくなっていることを隠すためのスケープゴートのような理論であって、いつまでたっても成功する保証のない理論である。
4.ステロイドの効果は9日も塗ればこんなにきれいになる、と宣伝されていた。皮疹が軽症であれば短期間に皮疹がステロイドで改善することはだれも疑わない。問題は長期にわたる使用が安全であるかどうかであるのに、この点について避けている。
   自信が無いから長期の事を表に出せないのである。
5.ステロイドについて効果と共に副作用も言われていたが、最も重要な依存性については全く触れようとしていない。
   皮膚科学会からそのようなことはあり得ないと言われているのでアナウンサーが言えるわけもないでしょうが、患者の声をちゃんと調べて述べるのがアナウンサーの義務ではないかと思います。
   論文でも既に次のように言われています。「外用ステロイドの使用は、アトピー性皮膚炎に関係する炎症を抑えるが、同時に皮膚の防御壁にさらに傷を作っているようであり、従って、アトピー性皮膚炎のさらなる悪化を起こる危険性を高めていると言えそうである。(J Invest Dermatol 2009; 129: 1892-1908)」。

 だから、学会の共通認識から都合の悪い所は省いて放送していると言わざるを得ない。日本皮膚科学会は、学術的内容から判断して問題があることをNHKの抗議すべきであると思われる。

朝日新聞「患者を生きる 皮膚 大人のアトピー」への意見を新聞社に送りました。以下がその内容です。
 私は阪南中央病院皮膚科に勤務する皮膚科医です。「患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法」(つげ書房新社、2008年)と「ステロイドにNo!を 赤ちゃん・子どものアトピー治療」(子どもの未来社、2010年)を出版しました。
貴社の「患者を生きる 皮膚 大人のアトピー」を注意して読ませていただきました。アトピー性皮膚炎の治療について言おうとされていることは、「⑥情報編」の「ステロイドは、…強さが5段階あり、症状や部位に合わせて使い分ける。強い薬から徐々にランクを落とし、塗る頻度を減らしていく。 適度な強さの薬を、適量、適切な期間使うことが大切だ。塗ってもよくならない場合は、薬の強さが合っていない、塗る量が足りないと言った理由が考えられる。」そして、副作用については殆ど問題がないということにまとめられると考えます。この内容を読むと、ステロイドを塗って治らないのはガイドラインに従ってきちんとステロイドを外用しないからだということになり、その責任はきちんと塗らない患者あるいはそのような指導をしなかった医師の責任ということになります。
殆どの皮膚科医は、東京逓信病院皮膚科部長先生が行われた濃厚な治療をすれば一時的に皮膚がよくなることは知っています。問題は、相談員の患者さんが4年前にいったん「なめらかな肌に戻っていた」にもかかわらず、現在でも保湿やステロイドやプロトピックを使わなければ生活できない状態が続いていることです。患者さんには、毎日の外用治療は時間的にも経済的にもそしてこのまま一生この状態が続くのかという精神的な不安など大変な負担があります。何も塗らなくてもよい状態にしたいと思い、ステロイドやプロトピックを減らそうとしますが減らせない人が非常に多いのです。私のところを受診する人の中には、ステロイドを止めようとしても止められずに20年30年塗り続けてこられた方もおられます。勿論、20年ほどステロイドを使用してこられた方が仕事を続けながらステロイドを徐々に減らして、1年ほどかけてステロイド離脱症状がほとんどなしに止めることができたこともあります。しかし、このような方はどちらかと言うと珍しいです。
2009年のアメリカ研究皮膚科学会雑誌に、「表皮防御壁機能障害」と題するアトピー性皮膚炎の原因などについて将来を見通すような概説論文が載りました(Cork MJ et al, J Invest Dermatol 2009; 129: 1892-1908)。この中で、「表皮防御壁に与える外用糖質ステロイドの影響」という項目の中で次のような内容の記述があります。少し長いので簡略化して述べます。「外用糖質ステロイドはアトピー性皮膚炎の治療に有効に使用されている。しかし、アトピーが持つ表皮防御壁の欠陥に対しては良くないという証拠が増えてきている。皮膚防御壁が傷む現象は、3日間という短期間の非常に強力な外用糖質ステロイド使用でも起るし、6週間という長期間の非常に弱い外用糖質ステロイドの使用でも起る。外用糖質ステロイドの中止後に起こるリバウンド悪化は、他の方法による防御壁破壊の後で見られるものに似ており、外用糖質ステロイドの使用によって抑えられていた免疫機構が解き放たれ、炎症反応が出てくると考えられる。更に、ステロイドは落屑を起こす蛋白分解酵素を作らせる。これらを総合して考えると、外用糖質ステロイドはアトピーの炎症を抑えるが、同時に皮膚の防御壁をさらに傷つけ、アトピーのさらなる悪化を起こす危険性を高めるようである。」と結論付けています。アメリカ研究皮膚科学会雑誌は世界で一番権威のある皮膚科学関連の雑誌と考えられています。ここで述べられているリバウンド悪化は、1979年に、外用ステロイド中止で激しい離脱症状が出現することと、この現象が潜行性の副作用で医師の間で認知度が低いステロイド嗜癖(依存)によって起ることが既に報告されています(Kligman AM, Frosch PJ, Steroid addiction, Int J Dermatol 1979; 18: 23-31)。このように、ステロイドを止めたいけれども止められない状態が存在し、そのことがアトピー性皮膚炎の問題を起こしていると私は考えています。私のところでつらいステロイド離脱症状を通り抜けると非常によくなられる方がほとんどであることがそのことを証明していると考えています。
ステロイドを塗って平穏な生活をされる方がおられることを新聞紙上に発表されることはそれはそれでいいでしょう。しかし、ステロイドをやめたくても止めれない、止めるために何をしたらよいか知らない人が非常に増えていることは事実です。この人々のための情報も新聞紙上に出てきてもいいのではないかと思います。脱ステロイド治療について紙上に載せてほしいとマスメディアに話をしますと、学界で認められている標準治療以外の情報は紙上には出しにくいという反応がほとんどです。これでは大本営発表の内容をそのまま紙上に出した戦前の新聞と何ら変わりはありません。そして、困るのはステロイドで本当に困っておられるアトピー患者さんです。このようなことが起ってくる根本的な原因は皮膚科学会のアトピー性皮膚炎に関する診療のガイドラインの欠陥だと考えています。朝日新聞社がアトピー問題の本当の現実を知り、正しい解決に向けて公平な情報を広く報道されることを期待いたします。そのことが皮膚科学会の間違いを正す一助になることは間違いないでしょう。

緊急のアピール
 11月9日から、朝日新聞朝刊の「患者を生きる」「皮膚 大人のアトピー」が11月14日まで連載されます。12日の4回目で第1回目からの文章のチェックを誰がしているかが分かってきました。この記事に対して新聞社から意見が求められています。色々な立場で色々な意見が出てくるでしょう。ステロイドで困り、治療を中止して良くなった人もいること、ステロイド外用によりステロイド依存性や保湿依存性の起る可能性のあることなどを広く知っていただく必要があると思います。ステロイドを使う人にこのような問題のあることを知らせるようなガイドラインにしていただけるよう、朝日新聞にも協力していただくために、多くの意見を出すのがいいのではないかと思います。
 インターネットをご覧になられるなら、以下のURLをご覧ください。1回目からの記事が読めます。
http://www.asahi.com/health/ikiru/TKY201011090279.html
記事への意見や体験のあて先は
〒104−8011 朝日新聞社報道局科学医療グループ「患者を生きる」係、です。
ファックスは 03−3542−3217 です。
メールは iryo-k@asahi.com です。名前と住所と電話番号を必ず添えてください、と記されています。

 NHKテレビが2009年9月5日午後9時にアトピー性皮膚炎について放送しました(すくすく子育て、アトピー性皮膚炎とのつきあい方)。どこかの小児科の先生が解説されてました。原因はアレルギーとバリア機能異常で、食事アレルギーとアトピー性皮膚炎は重複して罹患している患者もいるが一部であると言われてました。ここまでは当たり障りのない話でした。食事アレルギーを強調されなかったのは良かったかな、と思います。治療になると突然変わり、ステロイドを上手に塗れば何ら怖くない、このように、はじめはきっちり良くなるまで塗って、よくなれば間をあけて塗ればよい。怖がって症状が治まらない間に止めるからうまく治療できないのです。そして、体をきれいにするために一日に2-3回石鹸でしっかり洗って、その後でしっかり保湿剤を塗ればよろしい。そうすればここに出ていただいている患者さんのようにこんなにきれいになります、とのことでした。
 患者さんの皮膚をよく見ると、かすかに委縮が認められました。また、ステロイドをつけて起こってくるピンク色の白色皮膚描記症が額に見られました。ああ、この子はこの後どうなるのかな、と大変かわいそうに思いました。
 脱ステロイドについて皮膚科学会のお偉方はエビデンスがないとしばしば批判されておられますが、先日、2008年に皮膚科学会から出された「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を見ますと、「その他の特殊な治療法については、一部の施設でその有効性が強調されているのみであり、科学的に有効性が証明されていないものが多く、−−−その健康被害の面に留意すべきである」と述べ、直接脱ステロイドとは言わずに婉曲に責任を追及されないように脱ステロイド療法を批判されてます。それではこのNHKで推奨されているステロイド外用剤はどうかと見てみると、「現時点において、アトピー性皮膚炎の炎症を十分に沈静しうる薬剤で、その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤は、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏である。」と有効でかつ安全であると言いきっています。科学者なら誰でも「ではどのエビデンスで?」と思うでありましょう。私も引用文献を探しました。しかし、まったく引用されていませんでした。ということは有効性と安全性を証明する根拠エビデンスはないということです。自信を持って述べている内容を証明する文献がないのです。私はやはり私が考えていたことが当たっていたと自信を深めるとともに、学者としては「こんな学問的に恥ずかしいガイドラインを皮膚科学会は作らないでほしい」と強く思うとともに、皮膚科学会会員の一員として悲しくなりました。
 話を小児科の先生に戻しますが、小児科の先生方は自分たちがステロイドで治療した患者が20年後にどのようになっているかはほとんど知る方法がないと思います。皮膚科医はそれを見ています。小児期に「ごく軽いアトピー性皮膚炎だからステロイドを塗っても将来大丈夫」と太鼓判を押されてステロイドを塗った人が大人になって全身真っ赤なステロイド依存症になって苦しんでおられるのです。子供のアトピー性皮膚炎を治療するお医者さんはまずはステロイドを使わないで治療をするように努めていただければありがたいです。
 湿疹のあるお子さんをお持ちの親御さんは、まずステロイドを使わずに治療していただくようにお医者さんにお願いしましょう。その時には、このブログの2009年6月6日の(患者から提出するアトピー性皮膚炎治療のインフォームドコンセント)を利用してください。これをコピーして診察の前に医師と看護師に必ず見せてください。最近、お医者さんには話をしても、処置室へ行くと看護師さんが問答無用でステロイドを塗られているという話をしばしば聞くようになりました。ぜひ自分たちの納得のいく治療をしていただけるようにしましょう。そのためには少しの勇気が必要です。ステロイド外用薬の有効性と安全性は特に長期にわたる外用についての根拠はないのです。短期間できれいになることの誘惑に負けないようにしましょう。
 そうそう、NHKテレビすくすく子育て、アトピー性皮膚炎とのつきあい方に出ていた男性俳優ショウエイさんの表情が大変気になっていました。お医者さんのお話に相槌を打っておられましたが、常に何かに遠慮するような何かを気にしているような表情でした。この男性俳優さんは本当のところを御存知なのかもしれません。真実を覆い隠すための放送にはやはり問題を感じておられるのでしょう。私の受け取り方は間違っているでしょうか。

中日新聞7月10日に出ています。