アトピー性皮膚炎の原因についての試論
2010.6.6
1.はじめに
この試論の出発点は、1995年9月26日に行った愛知県医師会の健康教育講座で一般人向けに話したのが初めてです(健康教育講座講演集(14)号、25-48頁,平成9年3月31日発行)。その中では、以下の内容の重要な点がほぼ出ています。重要な点を述べる前にこのように述べています。「今回アトピー性皮膚炎の治療ということでお話しさせていただくことになりましたが実際によく考えてみますと、非常に難しい内容だなあと後になって気づきました。おそらく学会かなんかで流行の学問の話をするのでしたら、難しい単語、難しい内容をしゃべれば適当に誤魔化すことができると思うんですけれども、一般の方々の場合は一番本質的な質問をおそらくされるだろうなと考えました。そうしたら、これはえらいことを引きうけてしまったと思って必死になって自分なりに考えた結果をお話しするということになりました。−−−今色々言われている学説についていくつか問題がありますのでそれをお話しして、その後で私自身のアトピー性皮膚炎に対する考え方、これは今まで誰も言ったことのないような内容になると思います。‐‐‐私自身のアトピー性皮膚炎のとらえ方についてようやく出した結論を話します。考えた一番大きな問題点はアトピー性皮膚炎というのは成人になるとほとんど湿疹が起こらなくなるということです。」と。
重要な内容は「患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法」(つげ書房新社、2008年、佐藤健二著)の第16章 アトピー性皮膚炎の学説、2.アトピー性皮膚炎は「皮膚の適応性増殖調節不全症候群」?(131-132頁)、の中で述べられています。
このブログのひとつ前に書きました東京大学皮膚科教授の佐藤伸一先生の説(atopic ホームページ、佐藤先生のブログ:2010年4月24日、新しい東大皮膚科教授が考えるアトピーの原因)は、皮膚の異常で説明しようとする点は正しいと思いますが、成人になったらなぜ湿疹が起こらなくなるかという点について述べられていません。講演された後、この点を東京女子医大の川島先生が「突っ込み」の質問をされています。この点を解決できるのは成長を考慮した学説以外にはないと思います。
少し難しい内容ですが、じっくりと検討していただければ嬉しいです。
2.試論
日本皮膚科学会はアトピー性皮膚炎の原因は示していません。「アトピー性皮膚炎の原因は何ですか?」の質問に答えるには、まず「アトピー性皮膚炎」の定義をする必要があります。対象が明確にならなければそれの原因も明確になりません。
(1)日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎(AD)の定義
ガイドラインによると定義:は、「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。」(下線筆者)と記されています。下線部では時間経過を示していますが、乳児から成人に至る成長過程での皮疹の変化を含んでいないことに注意してください。
病態についてガイドラインは「表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と瘙痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。アトピー素因とは、①家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)があること、または②IgE抗体を産生しやすい素因をさす。」と記述しています。実験で出てきた結果をまとめて述べていますが、これまで蓄積されてきた長い臨床経過についてはほとんど無視しています。
(2)ADを他の疾患から区別する特徴
ある疾患を他の疾患と区別する方法は、多くの症例の中で特定の患者群に共通で他の患者群とは違う一連の症状を認識することです。ADの定義を考えるにあたって注意すべきことは、勿論全ての疾患で言えることですが、新しく分かってきた検査やその値の取り扱いについて、それまで経験的に集められてきた臨床的観察の中にどう位置づけるかが大変重要だということなのです。検査で分かってきたことからその疾患の本質を組み立てようとすると、検査が疾患の全体像を代表していない限り疾患全体のごく一部しか表現していない可能性が高いため、疾患の概念をごく偏ったものにする危険性があるからなのです。長期にわたって積み重ねられてきたアトピー性皮膚炎の基本的な特徴は次の4項目に絞ることができると思います。
1)乳児から成人に至る成長過程で皮疹発生部位や皮疹形態が変化します
乳児期には顔面、頭部、上胸部に湿ったビラン面の多い皮疹が出現し、概ね2歳頃までにいったん消失します。小児期は肘や膝の伸側にジクジクする滲出性の紅斑や丘疹が出現し、徐々に肘窩膝窩の苔癬化局面が目立つ皮疹へと移っていきます。思春期に再び一時的に症状が強くなり、肘窩膝窩に漿液性丘疹が混在する乾燥した苔癬化がよく目立つ皮疹となります。このように成長の時期によって皮疹の特徴は異なりますが、アトピー性皮膚炎で最も特徴的な皮疹は肘窩膝窩などに出現する苔癬化局面であります。
(一部の皮疹では真皮成分の増殖の強い場合もありますし、白色皮膚描記症のように血管の異常も含まれることもあります。真皮での変化の意義については今後の検討課題としたいと思います)
苔癬化の病理組織像は、表皮突起の延長と真皮乳頭層上の表皮の肥厚です。表皮突起の延長をきたす他の疾患に尋常性乾癬があります。尋常性乾癬との違いは、尋常性乾癬では表皮突起の延長はありますが、真皮乳頭層の延長が起こると共に真皮乳頭層上の表皮は菲薄化していることです。アトピー性皮膚炎でも表皮突起の延長はありますが、真皮乳頭層上の表皮は肥厚しており、尋常性乾癬の表皮突起の延長の性格とは異なります。尋常性乾癬では表皮細胞の自発的増殖があります。アトピー性皮膚炎の場合は掻破による受動的表皮増殖です。病理組織学的には神経皮膚炎(ヴィダール苔癬)は、限局性のアトピー性皮膚炎と考えることができます。
アトピー性皮膚炎の病理組織像がⅣ型アレルギーに似ているので、IgEにⅣ型アレルギー的働きを期待する考え方があります。一次刺激性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎との病理組織学的違いは、一次刺激性皮膚炎では炎症のごく初期に好中球の浸潤があるだけで、それ以後は区別がつきません。だから、リンパ球が表皮や真皮に多数存在することだけからⅣ型アレルギー説を出すのは軽率であるように思います。
2)アトピー素因が血族者に多くみられます
アトピー素因が血族者に多くみられますので、AD患者はⅠ型アレルギー現象を持ちやすい遺伝的特徴を有することは間違いないと思います。しかし、IgEのⅠ型アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因であるという説については次のような矛盾があり、納得できません。矛盾の基本は、IgE値高低と症状の強弱が並行しないことです。具体的には次のことです。
①IgEを遺伝的に産生することができない患者でも発症
②IgEの産生が始まるか始まらないかの生後2カ月頃から発症
③IgEの値が正常でも発症
④IgEは症状の悪化時には高値を示しますが、適切な治療をすれば高値でも湿疹は良くなります。皮疹が良くなった後しばらくしてIgEの値が低下します。(IgEの血中半減期が2−5日であることを熟考すべきと思います)
ステロイドを子供の時に使うと抗原に対するトレランス発生を妨害するのでアトピーが悪くなるという説は、結局IgEアレルギーが皮膚障害を起こすという説ですので間違いと思います。
3)皮膚は乾燥します
セラミドの減少やフィラグリン遺伝子の異常など皮膚の乾燥と関連のある機構が分かり始めています。しかし、成長とともにこの症状も軽くなります。皮膚の乾燥は瘙痒を起こし、掻破による皮膚障害を起こします。
4)痒みが強い疾患です
痒みが突発する特徴もあります。抗ヒスタミン剤が止痒に効く程度は少ないというADの痒みの特徴があり、ヒスタミンによる痒みの成分が少ないことが一般的に認められています。痒みには中枢性のものもあり、後述する(3.の3))ステロイドの中枢作用にも注意すべきと思います。
以上の4つがADの主要な特徴と考えることができます。そして、この中で最も特徴的であると考えるのは肘窩膝窩の苔癬化局面です。すなわち、掻破による表皮の肥厚が最も大きな特徴と考えます。
(3)アトピー性皮膚炎の病態生理
1)皮疹発生部位や皮疹形態の変化と身体成長曲線の相関
これらの特徴をうまく説明できる病態発生理論を考えていた時、全く偶然でしたが身体の成長曲線の動きと相関していることに気付きました。特に成長曲線の微分値(成長速度の速さ)の図が最も明瞭でした。すなわち、2歳頃までに急激な成長が終わり、2歳から思春期までにはだらだらとした成長速度の減少があり、そして思春期に一時的に成長が早くなって成人で成長が止まる、という変化です。
体が大きくなるにつれて皮膚は成長しなければなりません。2歳までの皮膚は、体の成長が極めて速いため皮膚の増殖が追いつかず、皮膚は軽度に障害された状態となります。この障害が治る時に、瘙痒あるいは瘙痒誘発因子が出現して掻破してしまいます。これに加えて、掻破による皮膚の削り取りを補うための増殖も上手くできないため、更に悪化します。しかし、2歳になる頃には体の成長速度が急速に低下し、皮膚の増殖能力が不十分でも体の成長についていけるようになり、皮膚は改善することになります。乳児では、頭部と上胸部が最も成長率が高いので、ビラン性、湿潤性皮疹が顔面、頭部、上胸部に発生することが理解できます。下肢などでは、増殖が追い付かず乾燥性湿疹のような亀裂が見られることもあり、痒みを起こします。
2−3歳頃は体動が増え始めるため体の伸側が擦過されるようになり、このような皮膚の剥奪に慣れていないための増殖不全が起こり、肘や膝の伸側に炎症が起こります。2歳以降は増殖速度が落ちますが、思春期に向かって少しずつ速くなっていきます。この間、体全身が概ね同じように成長します。年齢が高くなるにつれて肘窩、膝窩、頚部、手関節、足関節などに典型的な苔癬化が出現します。これらの部位は良く動く関節部位です。関節部の増殖調節は他の部位よりも難しいと考えられます。例えば次のことはご存じでしょう。ストッキングをはいた膝の関節部分は、曲げるとできるだけ縮小しようとし、関節屈側部に空間ができます。皮膚も体から切り取れば収縮します。しかし、実際に膝を曲げても関節屈側部には空間形成は起こりません。ここには微妙な調節機構があるはずです。
思春期では体全体が急激に伸びますがその速さは乳児期ほどではありません。そのため、小児期の症状、関節部に症状が強く出る形となります。
思春期が過ぎればADはほとんどなくなりますが、このことは体の成長が終わることで説明できます。しかし、皮膚は生涯増殖し続けますので、この増殖による悪化の可能性すなわちアトピー性皮膚炎の症状が少しは残ることは考えられます。皮膚を含め体には代償作用がありますので、皮疹が起こらなくなることは大いにありうると考えられます。
以上の考察は細胞の数的増加のみを問題としています。
細胞の数が減り皮膚を増殖させなければならない時に皮膚が悪化するのなら、お風呂で皮膚をよく洗うことは皮膚を削り取ることになり、アトピー性皮膚炎を悪化させる大きな要因になると言えるでしょう。風呂にあまり入らないことによって皮疹が良くなる効果は、ここの説明によって理解できるでしょう。
2)表皮細胞の質を変える増殖
表皮細胞の質を変える増殖というものは無いのでしょうか。生物の進化を考えれば、「皮膚は環境変化に対して常にその環境に適した細胞を作ろうとする」という仮説は、大いにありうると思えます。例えば、胎児が羊水中にいる時には周囲が水である状態に適した表皮細胞が存在するでしょうし、大気中に出れば空気に適した表皮細胞ができるでしょう。子供の誕生はこの変化を起こさせるはずです。事実、出産数日後に表皮は一度剥がれおちます。数日間に起こってしまうのですから、出産後の皮膚の環境への適応現象は非常に早く起こっていると考えられます。皮膚はこのようなすごい能力を持っていると考えます。
AD患者には季節的に夏に悪化する人や冬に悪化する人や両方の季節で悪化する人がいます。春の悪化では花粉の季節であるので花粉がアトピーを悪化させるのではないかと考えやすいです。花粉症はIgEのⅠ型アレルギーです。IgEアレルギーがADと無関係であることから考えると春の悪化は花粉以外の要素を考えるべきと思います。春秋に悪化する人は次のような仮説は無理でしょうか。人間も何十万年前は有毛動物でした。犬などは春秋に毛が生え変わります。表皮細胞の増殖が起こらないとこの現象は生じません。この遺伝子の働きがまだ残っているならば、春秋に皮膚に増殖現象が起こるでしょう。増殖調節が旨くできなければ皮膚に異常をきたし痒みを起こさせても不思議ではありません。湿度が高くなる夏や湿度が低くなる冬にその季節に適した皮膚を作ろうとすると、質的に違う細胞を増殖させる必要が出てきます。この場合も同じような痒みを起こさせる状況が生まれるでしょう。以前ある所で聞いた話ですが、ネズミの生活環境で湿度を大きく変えると基底細胞の増殖が少し増えるという発表がありました。環境の変化によって細胞の増殖が起こるということを示しています。そして環境が質的に違えば、生じてくる細胞も質的に違うものが生まれてくることを十分期待できると思います。
3)アトピー性皮膚炎悪化での精神的要素
アトピー性皮膚炎が悪化する時、精神的要素のあることは古くから言われています。子供に勉強しなさいと言うとすぐ掻き始めます。恋人との仲が悪くなると皮疹は悪化し、別れると皮疹が改善した例もあります。
長期にわたってステロイドを外用したAD患者で、成長障害、生理不順、発汗異常、乳汁分泌異常、抗利尿ホルモン分泌亢進など脳神経が関係した異常が時々認められます。他の疾患、例えば尋常性乾癬などでは聞きませんので、この現象はADにしか起こらないことだと考えられます。すなわち、ADではステロイド外用による刺激によって神経に異常が起こりうるということです。ステロイドを外用しなければこのような異常は起こりません。この異常はステロイドなどの異物による誘発的異常ですので、ステロイドを外用しなければ発生しません。また、今までの経験からすれば、皮疹が改善すればこの異常は元に戻ります。これらの異常が痒みとどのようにつながっているかは全く分かりません。
いずれにせよ、精神神経の働きによって痒みが誘発あるいは認知されやすくなって(痒み神経の閾値低下)掻破し、皮疹を悪化させることはあるということです。しかし、精神的異常がまずあって皮疹の悪化が起こるという見解に対しては、ある精神科医に言われた言葉を記しておきたいと思います。「アトピー患者の治療(脱ステロイド・脱プロトピック・脱保湿治療)では、まず精神科的なアプローチで何とかしようとしても駄目です。AD患者は皮疹が良くなれば精神状態も良くなります。だから、まず、皮膚を良くして下さい」と。この言葉を聞いてから、まずは皮疹を良くする方法を考えるようにしました。皮疹が改善すると、患者の精神状態は確実によくなります。精神を良くするより、皮疹を良くする方が先であることが分かりました。「精神をまず変えなさい」では旨く行かず、順序は逆だとおもいます。しかし、離脱失敗に陥りやすい性格というものはあるようです。この性格が邪魔をして、するべきことができなくなり、脱ステロイド治療が失敗したことはあります。
4)ステロイド外用によるADの誘発
ステロイド外用でADを誘発することがあるかどうかについてですが、そういうことはあると考えています。ステロイド外用は、外用部位だけでなく全身の皮膚に影響を与えています。頭部の脂漏性皮膚炎で長期にステロイド外用をしている人に、それまでに出たことのないADが肘窩膝窩に出現したことは何人かで経験しています。この誘発はすべての人間に起こるのではなくて、ADの素質を持っているがそれまで出ていなかった人にステロイドを外用することで誘発されたと考えています。
細胞の増殖との関連では、ステロイド外用による表皮委縮が何らかの情報を伝達し、増殖の異常をきたすと考えられないことはないでしょう。
(4)アトピー性皮膚炎の原因
皮膚は、皮膚が覆う個体を守るため、皮膚が置かれる種々の環境に対してその環境に適した皮膚を作り上げなければなりません。この調節は正常人にあっては厳密に行われています。皮膚細胞が単に数的に増殖する場合や環境に適合した皮膚細胞に変わるために増殖する場合の二つの増殖で、必要な数や質を調節する機構が遺伝的に不完全であると異常が起こります。増殖調節機構の遺伝的不完全さによる皮膚障害と瘙痒の発生、掻破性皮膚障害がADの原因である。この増殖には多くの遺伝子が関与しているはずで、多因子遺伝性疾患と考えます。従って、ADは皮膚の適応性増殖不全症候群と表現できる疾患です。また、この増殖調節機構は不完全ですが、体全体の調節機構の代償作用により、時間はかかるけれども正常の皮膚に変化します。すでに述べましたが、環境の変化とは皮膚が増加しなければならない体の成長、皮膚が適応しなければならない温度や湿度の変化、反応性増殖が必要な皮膚の擦過、などです。
東京大学皮膚科教授 佐藤伸一先生の講演から
(全てを記録できなかったのでその一部を紹介する。もし間違いがあればそれは私の責任である。)
第109回日本皮膚科学会総会の2010.4.16イブニングセミナー4で「アトピー性皮膚炎の考え方—病態の一元的理解を目指して—」と題して講演された。内容は、アトピー性皮膚炎の病態は、1)バリア異常と2)免疫異常(Th1/Th2バランスの異常やIgE産生など)という2つの主要な異常によって生じているが、一義的な異常はどちらかという問いかけとその答えであった。
バリア異常の原因としてアトピー性皮膚炎ではフィラグリン、ロリクリン、インボルクリンの発現異常がある。この異常は人種差がある。これらの蛋白質は、遺伝子異常のある場合は勿論低下しているが、遺伝子異常のない場合にもアトピー性皮膚炎患者では正常以下である。このバリア異常のために皮膚では外来性の抗原が免疫機構を反復刺激してIgE産生を増加させる。掻破を抑制するとIgE産生増加は低下する。IgE増加はアトピー性皮膚炎の原因ではなく結果である。掻破を抑制するとIgEが減ることもそれを示している。
IgE高値とアトピーの病態とは相関しないこと多い。例えば臍帯血のIgEの値とADの発症は相関しない。健常人でもダニに対するIgEは30-40%に陽性である。IgEに依存しないアトピー性皮膚炎がある。IgE欠乏症でもアトピーは出る。動物実験でIgEのノックアウトマウスでも湿疹はできるので、IgEに関連付ける必要はない。しかし、アトピーの重症度とIgEの値は相関する。だから、IgEは皮膚炎の結果生じるのであって、アトピーの増悪因子であるとの考え方は疑わしい。抗IgE抗体投与(omalizumab?)でもあまり効果がないこともそれを支持している。
フィラグリン欠損マウスで湿疹が起こるかを調べると、アトピー類似の湿疹が起こっている。フィラグリン欠損の魚鱗癬の約40%はアトピーの症状を示さない。ヒトでは別の因子が必要であるのか?
免疫異常はバリア異常を起こすか、の問いには、そうであると言える。これはフィラグリン遺伝子の異常なしにも起こる。Th2サイトカインはロリクリンやインボルクリンの発現を低下させる。これにより、バリア異常を起こさせる。
アトピー性皮膚炎は均一ではない。IgE関連アトピー、真のアトピー、外部刺激性アトピーがある。
結論的に、バリア異常がアトピー性皮膚炎の一義的な異常である可能性を示している。Th2サイトカインは、フィラグリン、ロリクリン、インボルクリンの発現を抑制し、更にバリ異常を助長する。
以上であるが、重要な点は、IgEをアトピー性皮膚炎の原因と考えないことをはっきりと主張されたことである。この講演の後で、この講演の座長を務めておられた東京女子医科大学皮膚科教授、川島 真先生は、「その考えで大人になればアトピーがなくなることはどう説明するのか」と質問された。これは、アトピーの原因がアレルギーであるとの説を唱える人でも困っている点である。この質問には佐藤伸一教授は明確な答えを言われなかった。講演会の後で私が道すがら「身体の成長に伴う皮膚の成長という考え方を考慮すれば説明できます」とお話しすると「言えるかもしれませんね」とのご返事であった。私の考え方に非常に近い考え方だと思いました
日本皮膚科学会に、ステロイド外用剤の副作用として、ステロイド依存性皮膚症をガイドラインに入れるように要望しました。以下がその内容です。今回は簡単に書きました。
日本皮膚科学会理事長 橋本公二 殿
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会委員長 古江増隆 殿
要望書
近年増加しているいわゆる成人型アトピー性皮膚炎は、「ステロイド使用によって生じたステロイド依存性皮膚症を合併するアトピー性皮膚炎」(「患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法」(つげ書房新社、佐藤健二著)16頁)と、そして「ステロイド依存性皮膚症とは、皮膚が外用ステロイド無しには普通に機能しない状態で、外用中止により離脱症状を起こ」(同書)す状態と考えます。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(日皮会誌:119: 1515-34, 2009)には、タクロリムス軟膏の使用に当たって注意すべき事項として酒皶様皮膚炎が挙げられています。酒皶様皮膚炎は、タクロリムス軟膏の発売よりはるか昔にステロイド外用によって起こる副作用として認識されました。酒皶様皮膚炎は顔面に生じたステロイド依存性皮膚症と考えます。顔面に生じるものであればその他の部位にできないはずはありません。現在アトピー性皮膚炎患者の間で問題となっていることは、全身に生じている酒皶様皮膚炎、すなわちステロイド依存性皮膚症です。学会の慣習にそぐわず、先に発見されかつ広範に生じている副作用である酒皶様皮膚炎をステロイド外用剤の副作用として挙げず、さらに患者の間で社会問題ともなっているステロイド依存性皮膚症については全く言及がないことはガイドラインとしては適切でないと考えました。
従って、平成22年3月10日付けで日本皮膚科学会専門医、深谷元継医師から提出された日本皮膚科学会あて要望書を支持するとともに、私もステロイド依存性皮膚症をステロイド外用剤の副作用に含めていただきたく要望書を提出させていただきます。よろしくお取り計らいをお願いいたします。
2010年4月3日
医療法人財団医療福祉センター 阪南中央病院 皮膚科 佐藤健二
プロトピックなどの外用免疫抑制剤で子供に発癌
1.アメリカ食品医薬品局(FDA)の発表
2010年3月22日毎日新聞朝刊によると、「FDAは2005年にも、発がんと関連する恐れがあるとして、使い方に注意するようよびかけて」いたが、「プロトピック」(日本で発売)と「エリデル」(こちらは日本では未発売)の2種類の免疫抑制作用のあるアトピー性皮膚炎外用治療薬を使った「米国の子供が、2004年1月〜2009年1月の5年間に計46人、白血病や皮膚がんなどを発症し、このうち4人が死亡した」とのことです。詳しく言うと「0〜16歳でプロトピックを使った15人、エリデルを使った27人、両方を使った4人の計46人が皮膚癌やリンパ腫、白血病を発症した」のです。
46人のうち「50%は、添付文書で『使うべきでない』とされている2歳未満。41%は、安全性が確立していないと注意喚起されている1年以上の長期使用。プロトピック使用後にがんになった子どもの26%は、有効成分濃度0.03%の子ども用ではなく、濃度0.1%の大人用を使っていた」とのことである。ここの記述を逆に表現すると次のようになります。“50%は、使うことの許されている2歳以上。59%は安全性が確立されている1年未満の使用。プロトピック使用後にがんになった子どもの74%は0.03%の子ども用のものを使用していた”ことになります。
「因果関係は明確ではないが、発がんと関連する恐れがあるとして、FDAは近く専門家会議を開き、薬の添付文書改訂を検討する」としているが、添付文書の改訂ではなく、全面使用禁止にすべきです。これまでプロトピックを使用しなければならないアトピー性皮膚炎患者はステロイド依存性皮膚症を合併しているので、脱ステロイド・脱保湿療法を行えばプロトピックだけでなくステロイドの使用の必要もなくなるから全面禁止にしても問題は起こらないからです。
2.プロトピックの使用は全面的に禁止されるべきです
プロトピックの危険性が解決されない時点で厚生労働省からアトピー性皮膚炎への保険適用の許可が出されました。私は、危険性が解決されない時点での保険適用許可は、子供を実験材料にしたプロトピックによる人体発がん実験であるから倫理的に許されることでないと評価しました。そして、いったん発売されたなら、プロトピックを使用したすべての子どもの経過を追わなければ最小限の義務も果たすことにはならないと思いました。そして、私は、プロトピックを絶対使わないようにと初めから言い続けてきました。しかし、ついにその危険性が現実のものになりました。厚生労働省は、直ちに全面的使用禁止令を出すべきです。そして、プロトピックを使ったすべての人々の経過を調べ、今後少なくとも20年の経過観察を義務付けなければならないと思います。
3.ネオーラルの使用禁止も行うべきです
免疫抑制外用剤をアトピー性皮膚炎に使用させない措置とともに、内服の免疫抑制剤ネオーラルの禁止も必要と考えます。ネオーラルの必要な患者は、上でも述べましたが、ステロイド依存性皮膚症(あるいはプロトピック依存性皮膚症あるいはその両者)を合併しています。同じように、脱ステロイド・脱プロトピック・脱保湿を行えばステロイドもプロトピックも使用しなくて済むようになるからです。
4.子供を守るためにプロトピック、ネオーラルを拒否しましょう
自然治癒力があり、多くは2歳で、ほとんどは成人までに自然に治るアトピー性皮膚炎を、ステロイドで治らないようにし、更に免疫抑制剤で発がんの危険性を加えないために、親はあるいは本人は、免疫抑制外用剤や免疫抑制内服薬の処方を拒否しましょう。自分たちの子どもや自分を守るために、患者の持つ治療の決定権を行使しましょう。
第9回アトピー性皮膚炎講演会が千葉県千葉市で行われます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://steroidwithdrawal.web.fc2.com/
成人型アトピー性皮膚炎は、ステロイド依存を伴ったアトピー
脱ステロイド・脱保湿療法で治そう
今問題のアトピー性皮膚炎についてもっと知っていただきたいと、この講演会を企画しました。
「アトピー性皮膚炎は怖い病気?アレルギー?」「治療はどうすればいいの?」
「小児でのステロイド依存症を減らすために何をすればいいの?」
このようなことを阪南中央病院皮膚科部長 佐藤健二先生が講演してくださいます。
また、小児科医の視点で、後援の佐藤小児科(堺市)院長 佐藤美津子先生もいらっしゃいますので、小さいお子様のアトピーでお悩みの方もご参加ください。
今、話題になっている「アトピー性皮膚炎」とは何か?
「脱ステロイド・脱保湿療法」とは? 「乳児アトピーと食は?」
2010年3月21日(日)午後1時15分〜5時30分(開場12時55分)
・第1部:講演
・第2部:患者による体験談
・第3部:質疑応答
参加費無料(どなたでも自由に参加可能。予約はできません)
会場:千葉市生涯学習センター 大研修室(定員86名、先着順、予約なし)
所在地/アクセス
■JR千葉駅東口または北口から徒歩8分
■千葉都市モノレール「千葉公園駅」から徒歩5分
■JR千葉駅北口から、千葉内陸バス「千葉駅」行で「中央図書館・生涯学習センター」下車
※ 尚、講演会終了後、場所を移して懇親会(有料)を行います。
懇親会のお申し込みは、「お問い合わせ先」steroid_withdrawal@yahoo.co.jp へ。