脱ステロイド、脱保湿、脱プロトピック療法 を行っている佐藤健二先生のブログ
Header

世界仰天ニュース批判への批判(詳細版)

1月 3rd, 2022 | Posted by 佐藤 健二 in 新聞・テレビ
皆様

2021年9月7日に日本テレビで放送された「ザ!世界仰天ニュース:ひどい肌荒れがまさかの方法で回復」は、偏見なくこのニュースをみれば、「ヘェーそう、ステロイド外用薬を止めてもきれいになることもあるのだね。良かったね」で済むように思われます。ところが日本皮膚科学会などは、「このような番組が放送され、医療の混乱を来すことは、看過することができません。」として、「厳重に抗議した」と声明を発表しています。皮疹が良くなったことを報道することに憤りを感じることは不思議なので、抗議文の正当性を検討してみました。
【第1段落について】
ニュースでは、「ステロイドは本来体内で作られるが、ステロイド薬の使い過ぎにより体内でステロイドが作られなくなった。」「再び体内で作られるようにするには、ステロイド薬を断つしかない」といっているが、これに対して学会は「科学的に明らかに根拠のない内容がある」、と述べています。しかし、2018年に出されたアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(日本皮膚科学会雑誌2018;128:2431-2502:以下2018ガイドライン)には、2458頁に「強いステロイド外用薬の外用で一部の症例で副腎機能抑制が生じたとする報告がある」との記述があります。この文章を言い換えれば、ステロイド薬の使いすぎでステロイドが作られにくくなることがあることを言っており、ステロイドが作られるようになるにはステロイドを減量あるいは中止する必要があるということも意味します。テレビで放映された顔面への外用では副腎不全の起る確率は低いと思います。だからといってニュースが全面的に間違ったことをいったとは言えません。この少しの不正確さをもってニュース全体に問題があるような表現は、ステロイドを中止して皮疹が良くなった重要な事実を無視する科学者として不適切な行動だと思います。2009ガイドラインにはストロングクラス(リンデロンV)の単純塗布では、20gの外用が副腎機能抑制を生じうる一日外用量であると述べられています。ちなみに、2018ガイドラインが参考として記述しているFTU(finger tip unit)外用療法では、紅皮症の人(全身に発赤のある状態)への外用量は20.25gとなり、副腎機能抑制を起こす危険領域の治療をすることを勧めていることになります。このことは注意としてガイドラインに記述されるべきと思います。なお最近はストロングクラスではなく一段強度の高いベリーストロングクラスのステロイド外用剤の使用が多くなっている印象があります。更に副腎抑制が多くの人に起こり始めている危険性が心配です。
【第2段落について】
1.ステロイドの種類も使用方法も区別せず、ステロイド一般として説明したため、全てのステロイド使用者に恐怖と不安を与えた、2.「療法」という言葉を使い、ステロイド不使用で疾患が治るかのごとき期待を抱かせている、3.ステロイドの危険を把握し、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインに沿って治療している医師と患者さんに不安と妨害を与える、4.番組により健康被害をもたらす可能性が高い、と批判しています。1.について、現実に使われた薬物は、個別の商品名を挙げてはいないが総称としてはステロイドであり、その使用によって皮フが悪化したこと、そしてその中止によって皮疹が改善したことは明白です。だから、ステロイド治療中の患者や医師に対して、ステロイド使用について慎重であるべきことを示すとともに、このような皮疹が生じてもきちんと治療すれば良くなる希望を持てることを示したものです。2.について、ステロイドを使わない方法が効果のないものであれば、たとえ「療法」という言葉を使ったとしても良くならないでしょう。しかし現実には良くなりました。その理由は「療法」という名前を付けたからではなくて、実際に効くから良くなったと考えるべきでしょう。だから、ステロイドを使わないことで疾患が治ることがあるという期待を抱かせることを示した有益な放送と言うべきでしょう。3.について、放映された患者さんはアトピー性皮膚炎ではなく酒さ様皮膚炎であり、アトピー性皮膚炎を治療している医師と患者とは関係のない内容です。にもかかわらず、わざわざアトピー性皮膚炎診療ガイドラインについて記述したのは、脱ステロイドという言葉がアトピー性皮膚炎の治療に大きく影響してきていることを学会が恐れていることを示しているのでしょう。4.について、番組は、ステロイドを使用して悪化した皮膚でステロイドを止めると一時的には酷くなったがその後で良くなったことを示しただけです。酒さ様皮膚炎の場合、学会のするべきことは、健康被害をもたらす可能性を心配することではなくて、できるだけ強い症状が出ないようにステロイドを中止する方法をえることです。
【第3段落について】
「脱ステロイド」と呼ばれる不適切な治療の横行を防ぐために、日本皮膚科学会では「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を策定し標準治療の普及に努めてきたのに、ステロイド外用薬に関する誤解や誤った内容の報道をマスメディアが再びすることは医療に混乱をもたらし、看過することができないので抗議する、と日本皮膚科学会などが言っています。あれ、ここでも話をアトピー性皮膚炎にすり替えていますね。繰り返しますが、報道は酒さ様皮膚炎がステロイド外用で発症し脱ステロイドで良くなった、という内容です。アトピー性皮膚炎であっても、何十年とステロイドを使用した後で脱ステロイドをして皮疹がなくなり、快適な生活をしている方がおられるのは多くのSNSで分かることですし、少ない文献であっても脱ステロイドで良くなられた方の報告はあるのに、これらを無視してなぜ脱ステロイドを全面的に否定するのでしょうか。理解に苦しみます。
【抗議文の内容の全般的評価】
1.放送内容の一部の不正確さを強調し、放送内容すべてが非科学的であるかのように見せかけようとしています。
2.放送された患者さんの病気は酒さ様皮膚炎であることを明らかにせず、あたかもアトピー性皮膚炎の患者のステロイド離脱であるかのように話を進め、一般の皮膚科医に受入れられやすいこれまで通りの「脱ステロイド」全否定を行っています。このようなすり替えにより、酒さ様皮膚炎の発生原因がステロイド外用であることと、その治療法であるステロイド外用の中止(脱ステロイド)を隠しています。
3.今回の報道症例が酒さ様皮膚炎であり、この疾患に対する標準的な治療であるステロイドの中止(脱ステロイド)で皮疹が非常に良くなったことを報道は事実として示しました。皮膚科学会にとって、皮疹が脱ステロイドで良くなることはあってはならないことのようです。科学者は事実を元に評価をしなければなりません。脱ステロイドで皮疹が良くなった事実を認めないなら、その行動は科学者の態度とはいえません。
脱ステロイドという言葉で表現される治療が成功すると、多くの皮膚科患者や医師はアトピー性皮膚炎治療での脱ステロイドの評価を考えます。イギリス皮膚科学会と英国湿疹協会の2021年の共同声明中でステロイド離脱がステロイド使用中の難治性アトピー性皮膚炎への一つの治療として認められました。ウエブ情報では、世界中の多くのアトピー性皮膚炎患者が脱ステロイド・脱保湿療法で良くなっていることが示されています。このように事態が進むと、ステロイドを使用しない治療方法が公表され公認されるようにならなければならないと思います。少なくとも酒さ様皮膚炎についてはステロイド離脱後の治療方法をガイドラインは示すべきですが、「皮膚科専門医に紹介」することだけしか記されていません。もし治療方法が記述されれば、酒さ様皮膚炎患者への対応が安心してできます。酒さ様皮膚炎はステロイド依存性皮膚症の顔面版ですから、ステロイド依存性皮膚症を伴ったアトピー性皮膚炎患者に対しても有益なものとなるでしょう。更に、自分の子どもにステロイドを使わせたくない親が虐待しているとして児童相談所に子どもが取り上げられる心配も無く、近くの医療機関で安心して非・脱ステロイド治療を行ってもらえるようになるでしょう。そうなれば、相談できる施設がなくて困り果ててやつれた母親と脱水状態の危険な赤ちゃんをみることもなくなるでしょう。
【酒さ様皮膚炎の原因と治療の文献】
酒さ様皮膚炎の原因と治療に関していくつかの皮膚科の教科書をお示ししておきます。
#TEXT皮膚科学、伊藤雅章、小川秀興・新村真人編集、南山堂、東京、1998年、p240
酒?様皮膚炎:
ステロイド外用薬長期連用の副作用---難治性。
#皮膚科学、大塚藤男著・編、第9版、金芳堂、京都、2011年、p704
酒?様皮膚炎:
ステロイド外用薬による局所副作用の一型。---治療のためにステロイドの外用を中止するとリバウンドが激しいが、これを乗り切る必要がある。
#皮膚科レジデントマニュアル、菅原弘二、鶴田大輔編、医学書院、東京、2018年、p285
酒?様皮膚炎:
ステロイド外用を顔面に長期使用で生じる。---ステロイド外用薬を中止することが基本であるが、リバウンド現象に注意を払い、慎重に行う
このように、酒さ様皮膚炎の原因はステロイドの外用であり、治療はステロイドの中止です。
2018ガイドライン(2459頁)には酒さ様皮膚炎について次の記述があります。
「酒さ様皮膚炎は、主として成人の顔面にステロイド外用薬を長期間使用した場合に、紅斑、毛細血管拡張、毛包一致性丘疹、膿疱などがみられるステロイド外用薬の副作用で、この状態でステロイド外用薬を急に中止すると紅斑や浮腫が悪化することがある。これらの症状がみられる場合には速やかに皮膚科専門医に紹介すべきである。」
(筆者の注:ところが、皮膚科専門医がどのような治療を行えば良いかについては記載はありません。)

皮膚科学会などの抗議文は以下で見ることができます。

https://www.dermatol.or.jp/modules/publicnews/index.php?content_id=12

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 You can skip to the end and leave a response. Pinging is currently not allowed.

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA