アメリカの研究皮膚科学会誌は外用ステロイド離脱(TSW: topical steroid withdrawal)の症状がアトピー性皮膚炎とは独立した病気であることを認めた論文(①)を掲載した。この論文についての要約的コメント(②)も載せた。
- Shobnam N et al
Topical Steroid Withdrawal Is a Targetable Excess of Mitochondrial NAD+
J Invest Dermatol 2025, 145(8): 1953-1968
(TSWはミトコンドリアNAD+の、治療標的としうる病的上昇である。)
- Parisut Kimkool & Helen Brough
Topical Steroid Withdrawal: Addressing a Controversial Dermatological Condition
J Invest Dermatol 2025; 45(8):1829-1830
(TSW:異論のある皮膚科学上の病状に答えて)
その内容の重要な点につき簡単に示すとともにその問題点について紹介する。
【両論文の意見の対立】
アトピー性皮膚炎患者が長期にわたってステロイド外用治療を行なっている状態で、何らかの理由でステロイド外用を中止した時に生ずる激しい症状、あるいはステロイド外用をそれまでと同じように続けているにもかかわらず外用ステロイドの強度を上げなければならない,外用量を増やさなければならない,外用頻度を上げなければならないと考える悪化状態を、ほとんどの医師は外用ステロイドの副作用ではなくアトピー性皮膚炎の悪化と評価しステロイド治療の増強の必要を主張する。一方、患者は、そのような状態をアトピー性皮膚炎の悪化ではなく外用ステロイド離脱症状(TSW: Topical Steroid Withdrawal)という外用ステロイドの副作用でありステロイド治療を中止する必要があると訴える。このような意見の対立は長く続き、確実な研究による解決が求められていた。この対立に対して一つの答えが出された。TSWがアトピー性皮膚炎とは独立した病的状態であることが①の論文で示された。
【重要な点】
最も重要な点は、生化学的、分子生物学的などの色々な研究手法によりTSWがアトピー性皮膚炎とは異なる異常を持っていることを示したことである。TSWは、全身的な脂質調節不全とミトコンドリア複合体Ⅰの機能亢進によるNAD+産生過多という点でアトピー性皮膚炎とは異なっていた。また、治療としてもミトコンドリアの機能亢進はメトホルミン(ビグアナイド系血糖降下剤)とベルベリンで改善させることができる可能性を示した。
【調べたのは保湿依存】
ステロイドに関しては、健常人に短時間外用したときの変化を見ているがこれでは不十分である。患者での検査は難しいが、a)長期にわたってステロイドを外用した皮膚、b)ステロイドと保湿剤を中止した一週間後の激しい離脱症状の出現している皮膚、c)外用中止3か月後の症状が安定した皮膚を調べる必要がある。
外用ステロイドが皮膚に残る量は、ネズミでの実験ではあるが、4日で概ね1/10の濃度に低下する。従って、ステロイド離脱後4ヶ月であれば皮膚には外用ステロイドは無いと考えられる。TSWがあると訴え皮膚を研究に提供した患者は、少なくともステロイド外用中止後4か月以上、平均47ヶ月過ぎている。そしておそらく保湿を行なっているであろうから、調べた皮膚はTSWの一症状である保湿依存症の状態を調べたことになると考えられる。TSWの検討は上記a)~c)の3段階につき①論文で行われたのと同じように広範になされるべきだがACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、コルチゾールと外用ステロイドの皮膚内濃度変化が含まれなければならない。人間で行なうのが困難であればネズミで行なうことは可能であろう。
【海外でのTSWという言葉の意味】
外用ステロイド離脱という言葉を使うならばそれが表現する現象は、外用ステロイド依存症下でステロイドの中止時に生ずる症状に限定すべきである。言葉を変えるなら、「外用ステロイド依存症」であろう。その内容を以下に述べる。
【外用ステロイド依存症とは】
1.離脱症状。外用を中止すると出現する症状で多くは激しい。外用ステロイドにより皮膚でのステロイド合成が減弱~停止によって起こると考えられる。
2.効果減弱反応。継続して同じように外用していても症状が強くなり薬の効果が減弱していく状態。ステロイド外用による皮膚での外用ステロイド代謝亢進により、その効果が弱くなる現象。
3.保湿依存。ステロイドを止めても保湿継続の場合は何時までも炎症が軽減しない状態。メカニズムは不明。
4.無外用部反応。外用中止時、無外用部にも皮疹が新たに出現。メカニズムは不明。
5.自然治癒の機構の阻害。メカニズムは不明。
【TSWの治療と予防】
論文①で、ミトコンドリア複合体Ⅰの機能亢進が臨床症状に関連しているとの事実から、TSWと言われている症状の軽減のためには複合体Ⅰの抑制物による治療を提案し、実験し、改善を認めている。この研究活動に異議を挟むものでは無いが、少なくともTSWを生じさせないために何をすべきかは提案すべきである。すなわち、アトピー性皮膚炎の治療に安易にステロイド外用を始めるのではなく、可能な限りステロイドを使わない治療を行う事である。また保湿依存に対しては脱保湿療法も考慮に入れるべきである。
【提案された診断基準】
コメント論文②は、今後の研究の発展にはTSWの明確な診断基準の確立が必要であると述べている。論文①で示されている診断基準は次の通りである。
Major Criteria 主診断基準
Burning 熱感
Flushing 潮紅
Thermodysregulation 体温調節不良
Minor Criteria 副診断基準
Bone deep itch 骨深そう痒
Profuse peeling 多量落屑
Red sleeves 赤袖
Loose skin 弛緩皮膚
Hair loss 脱毛
Gingers 刺しこむような痛み
Lymph nodes リンパ節腫脹
Swelling 浮腫
Eye dryness 眼の乾燥
主診断基準が一つ以上に加えて副診断基準が三つ以上有れば、TSWを持っているといった人々の90%以上が含まれるとのことである。研究対象として登録された人々は全身に皮疹のある人々である。このことが原因で上記の診断基準で90%以上の感度(Sensitivity)で患者を選別できたのであろうが、臨床の場では部分的な皮疹しか持たない人々でもTSWは存在している。又、診断基準による感度は示されているが、特異度(Specificity)は示されていない。臨床症状で区別しようとすると特異度はおそらく低いであろう。従って、検査データでのそれも侵襲の少ない検査で得られるデータで鑑別できるようになるのが望ましい。
【今後の検討課題】
・外用ステロイド依存時に外用ステロイドを中止した場合の外用皮膚局所でのコルチゾール産生と副腎でのコルチゾール産生の相互連絡機構の有無。
・外用部位以外にもステロイド離脱症状を起こさせる情報伝達系の解明。
・自然治癒機構。
・外用ステロイドの作用は対象の年代によって違いはあるか
皮疹出現の多い時期(2歳未満):2歳までに概ね治ると言われる湿疹の出現と悪化の時期にステロイドの外用をする場合
皮疹出現が減少していく時期(2歳以降):2歳以降に残る湿疹に対するステロイドの作用

